お客様から「税理士と公認会計士って何が違うんですか?」と聞かれることがあります。

税理士も公認会計士もともにお金に関する職業であることには変わりませんが、似たような印象を持たれている方の多い資格です。

私自身、公認会計士を取得し、その後税理士資格を取得しましたが、資格取得を目指すまでその違いははっきりと分かっていませんでした。

そこで、本ブログでは、資格試験の違いではなく、私自身が公認会計士と税理士として、両方の活動を通じて感じているリアルなところで公認会計士と税理士の専門知識の違い、資格を得た後の活躍できるフィールドの違いについて説明したいと思います。

細かい内容に入る前にその違いを簡単に説明すると以下のような説明になります。

税理士は、「中小企業を中心とした税金に関する専門家」
公認会計士は、「大企業を中心とした会計に関する専門家」

もう少し具体的にすると、税理士の仕事は、中小企業または個人が対象で、きちんと税金を納める手伝いをすることです。

また、公認会計士の仕事は、大企業が決算書をきちんと作っているかチェックすることです。

 

 

つまり、税理士と公認会計士の違いは、資格を取得したあとの社会的に期待されている業務が異なります。

よく「公認会計士の方が税理士より上ですか?」と聞かれるのですが、

答えは、「どちらが上下ということは全くもってない」と考えています。

以下で説明しますが、専門分野が違うので比較のしようがないからです。

税理士と公認会計士の専門知識の違い

資格を取るにあたって得る知識は税理士、公認会計士それぞれ以下のように異なります。

税理士は、①会計と②特に税金に関する法律=税法(9つの内3つを選択)

一方、公認会計士は、①会計、②税金に関する法律=税法、③会社法(会社が守るべき法律)、④会計監査(会計をチェックするための理論、考え方)、⑤その他(経済学、経営学、民法、統計から1科目選択)

一見、税理士の方が少ないように感じますが、そうではありません。

②税金に関する法律に関しては、圧倒的に税理士の方が幅広く、そして深く身につけています。

なぜなら、税理士は、税金の専門家だからです。

一方、公認会計士は、持っている知識は税理士に比べ、幅広く、特に①会計は、管理会計という分野が含まれており、様々な分析手法を身につけています。

 

これらの専門知識の違いは、資格が持つ社会的な使命の違いからきています。

よって、次に両者の社会的な使命の違いについて説明します。

税理士と公認会計士の社会的な使命の違い

税理士が守るべき法律である税理士法と公認会計士が守るべき法律である公認会計士法の第1条にそれぞれ税理士と公認会計士の使命が掲げられています。

・税理士法1条より、税理士の使命は、「税に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図る」こととなっています。

 

分かりやすくいうと、納税者が税金を払い過ぎず、また、決まった税金をきちんと納めることができることをサポートすることが税理士の使命となります。

 

・公認会計士法1条より、公認会計士の使命は、「公認会計士は、監査及び会計の専門家として、独立した立場において、財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図り、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする。」と掲げられています。

分かりやすく言うと、会社の決算書の内容によって投資するか、お金を貸すか等の判断を行う投資家、金融機関などの債権者が誤った決算書で判断をしないように、監査を行うことにより決算書の信頼性を高めることが公認会計士の使命です。

次に対象となる顧客の違いについて説明したい思います。

税理士と公認会計士の対象となる顧客スタンスの違い

税理士は、中小企業が中心と上記では表現しましたが、正確には、税金に関することを業務とするので、事業を行うすべての中小企業から大企業までと幅広いクライアントに対して業務を行います。

そして税法を軸として顧客に寄り添い、顧客の現状をしっかり把握したうえで顧客の利益、ニーズ、お困りごとに対してできる限り、最適な提案を行うことができます。

私は公認会計士業務より税理士業務の方がやりがいを感じるので現在税理士業務のみを行っています。

その理由がこの顧客スタンスにあります。

私は、税理士と公認会計士の最も大きな違いは顧客スタンスにあると考えています。

公認会計士は、後述しますが、このような顧客スタンスで仕事をすることは不可能です。

やりたくてもできません。

だから私は、公認会計士業務を辞めて税理士業務を行う道を選びました。

この点は人それぞれのやりがいを感じる点の違いにあると思います。

 

次に公認会計士の顧客についてですが、公認会計士は、会計監査が必要なクライアントに業務を行います。

きちんと決算書が作られているかチェックすることを「会計監査」と言います。

会計監査が必要なクライアントは、上場会社、資本金5億円以上、負債が200億以上の会社、学校法人等に限定されます。

よって、公認会計士は、中小企業をクライアントに業務することは一般的にはありません。

会計監査は顧客に対して非常に強い独立性が重視される仕事です。

なぜなら、会計監査は、会社のために行うものであると同時に投資家に対して行うものであるからです。

仮に会社が決算書をごまかしてでも良い数字にしてたくさん資金調達したいと考えた場合、公認会計士は、会社の利益を優先すべきでしょうか。

当然このような会社の考えを受け入れることはできず、投資家が決算書を見誤ることなく投資を行いたいというニーズに沿って行動すべきです。

しかし、公認会計士の目の前にいるのは投資家ではなく、会社です。

通常、目の前にいる人といない人の要望のどちらを優先してしまいがちかと考えると当然目の前の人の要望を優先してしまいがちです。

このような投資家の利益を優先した態度を公認会計士が保持し続けるためには、会社から一定の距離を持つ必要があります。

よって、公認会計士は、あくまで会社の決算書が会計ルールに基づき作成されているかという範疇でサービスを行うことになるため、税理士のような顧客利益を重視したサービスを行うことができないのです。

次に税理士と公認会計士の業務の違いについて説明していきます。

税理士と公認会計士の業務の違い

税理士の業務…税金全般に関する業務

  1. 税務代理(税理士法2条1項1号)…納税者に代わり、税金のことに関し、税務署等の代理をすること
  2. 税務書類の作成(税理士法2条1項2号)…納税者の税務申告書等の作成
  3. 税務相談(税理士法2条1項3号)…税金の相談にのること

税理士は、税金に関する全般の業務が中心です。

税理士以外が、税金に関する相談や代理、申告書の作成を行うことが法律で禁じられています。

税理士の資格を持っていない人が無料でも税金に関しての相談、助言を行うことは、法律違反となります。

税金のことに関しては、税理士のみが認めれられている独占業務となります。

そして、税務業務に付随して生じる業務があり、具体的には以下のような業務があります。
税理士の税務業務に関する付随業務

  1. 経営相談業務‥経営に関する幅広い相談
  2. 記帳代行業務‥会計ソフトの入力を行う業務
  3. 資金繰り改善・資金調達サポート業務

個人的には、この付随業務に関して非常にやりがいを感じています。

特にお客様に様々な質問、会計に関する分析を通して、会社の内容を把握して、経営者の方々と一緒に経営が改善するために考え、実行し、成果が出たときは、本当にこの仕事をしていてよかったと感じることができるからです。

 

公認会計士の業務…上場会社や規模の大きい会社の決算書のチェックを行う業務

  1. 財務書類の監査又は証明をすること(公認会計士法2条1項)…決算書等がきちんとできていることを証明する監査業務
  2. 財務書類の調製をし、財務に関する調査若しくは立案をし、又は財務に関する相談に応ずることを(公認会計士法2条2項)…決算書等作成、その相談等の業務

一方、公認会計士は、上場会社等の決算書のチェックが業務の中心です。

上場会社の決算の内容によって、投資家は株の取引を行います。

決算の内容が正しいことを証明するための監査をすることで、投資家は上場会社の決算書を信頼し、株の取引を行うことができます。

税理士と公認会計士の受験から資格取得までの流れ

・税理士:筆記試験⇒税理士事務所、会計事務所等で実務経験2年(筆記試験前でもOK)⇒税理士登録
・公認会計士:筆記試験⇒監査法人で上場会社の監査実務2年⇒筆記試験⇒公認会計士登録

公認会計士は、2回の筆記試験があるのに対し、税理士、公認会計士ともに、筆記試験と実務経験が必要とされている点で共通しています。

公認会計士登録後、税理士試験を経ることなく、税理士登録することが可能です。

よって、私は、税理士試験を経ることなく、税理士登録しました。

税理士と公認会計士の仕事に対するスタンス、性質の違い

これまで数千人の公認会計士が在籍する監査法人での勤務、税理士が10名ほど在籍する税理士法人で勤務してきましたが、私の感じる公認会計士と税理士の仕事に対するスタンスの違いについて説明したいと感じています。

まず、ともに法律を重視している職業であるため、コンプライアンスに対する意識は非常に高い点では共通しています。

真面目で硬い人が多い、そして、営業が得意な人が少ないというのというのが私の印象です。

一方、違いについては、表現が適切か分かりませんが、税理士は、スピーディーかつ泥臭く、しっかり仕事を行う人が多いのに対して、公認会計士は、慎重かつスマートに仕事をする人が多いという印象です。

職業柄、組織構造上からくるものかもしれませんが、リスクに対して敏感なのは公認会計士だと思います。

 

税理士と公認会計士の違いのまとめ

ここまでまとまりのない両者の比較になってしまいましたが、税理士、公認会計士の仕事を中心にその違いと共通点をまとめてみました。

これから税理士か公認会計士か迷っている方は、資格は目的ではなく、手段だと思います。

その先に何を自分がやりたいか、何をやったらやりがいをもてそうかのイメージがあるかないかはその後のキャリアに大きく影響すると思います。

資格は取った後が勝負です。

目指すキャリアが明確になれば、やるべきことが決まります。

やるべきことが早く決まれば、いち早くやるべきことに取り組むことができ、得るべきものを得ることができるからです。

公認会計士試験に合格し、上司に自分のキャリアを話す機会があったのですが、かなりびっくりされました。

なぜかと言うと、上司曰く、会計士になった後、具体的な目標を持っている新人はほとんどいなかったらしいのです。

そして、監査法人を同期で一番最初に退職しました。

環境に不満があったわけではなく、キャリアが決まっていたからです。

皆さんのキャリアの形成の参考になれば幸いです。