ほとんどの個人事業主の倒産防止共済は節税にならず、キャッシュフローの悪化につながる理由を解説

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本ブログでは、これまで1000人以上の個人事業主の確定申告を行ってきた税理士が、多くの個人事業主で倒産防止共済=節税という認識のもと、倒産防止共済に加入し、キャッシュフローを悪化させているケースとその理由を解説しています。

以下の記事では、倒産防止共済のメリットを最大化する方法について解説しているのでこちらの記事も併せて読んでみてください。

倒産防止共済の掛け金の支払い時には100%キャッシュフローが悪化する理由

本ブログでは、倒産防止共済の本来の役割である取引先が倒産し、掛金の10倍を借入することができる効果は加味せず、個人事業主にとって倒産防止共済の節税効果がキャッシュフローを改善するかの一点で説明します。

倒産防止共済の掛け金を支払った時、経費が増加し、所得税、住民税、事業税、国民健康保険料など税金を軽減する効果があるのは事実です。

掛金支払時の節税効果=掛金総額✕③税率(所得税率+住民税率+事業税率+国民健康保険料率)

しかし、倒産防止共済を解約した時に戻ってくる解約手当金の税務上取扱いは、売上と同様の扱いとなり、所得税、住民税、事業税、国民健康保険料が増加してしまうのです。

掛金解約時に増加する税金=解約手当金額✕④税率(所得税率+住民税率+事業税率+国民健康保険料率)

加入後、40カ月以上の解約だと掛金が100%戻ってくるので、掛金総額=解約手当金額となります。

また、③掛金支払時の税率と④解約時の税率が同じであれば、掛金支払のよる節税額と解約時の税金増加額が同じに金額になります。

そして、この時、キャッシュフローの観点からは、倒産防止共済を加入するメリットはないどころか、デメリットしかなかったことになるのです。

「掛金支払うときに、節税効果があるので、キャッシュフロー的にプラスになるのでは?」と思われる方もいるかもしれません。

しかし、倒産防止共済は、上記の場合だと、倒産防止共済の加入より、100%キャッシュフローが悪化すると断言できます。

倒産防止共済がキャッシュフローの観点からマイナスの効果が生じてしまう理由について解説します。

倒産防止共済の加入によりキャッシュフローが悪化する理由について

倒産防止共済加入による節税効果のみがフォーカスされて語られています。

しかし、キャッシュフローを考える場合には、倒産防止共済の掛け金支払から生じるキャッシュフローを2つに分解して考える必要があります。

一つ目はおなじみの倒産防止共済の掛金支払による節税によるキャッシュの増加

二つ目は、倒産防止共済の掛け金支払自体のよるキャッシュフロー減少

つまり、倒産防止共済の節税効果によってキャッシュフローは増加する一方、倒産防止共済の掛け金を支払うこと自体でキャッシュフローは減少しているのです。

事例でご説明します。

例えば、掛金支払額200万の時に掛け金を支払った時のキャッシュフローは以下のようになります。

①節税効果によるキャッシュフロー増加 掛金200万×税率38%(所得税率10%+住民税率10%+事業税5%+国民健康保険料率13%)=+76万

②掛金支出によるキャッシュフロー減少 △200万

③倒産防止共済の加入によるキャッシュフローメリット △126万‥①+②

節税効果によって、76万のキャッシュフローが増加しているものの、掛け金を支出よって200万のキャッシュフローが悪化しており、結果的に126万のキャッシュが減少しています。

キャッシュを改善するための節税が、逆にキャッシュフローが悪化させてしまっているのです。

では倒産防止共済の解約時はどうなるのか?

解約時も含めて考えるとどうなるの考えてみます。

倒産防止共済は、40カ月を超えて解約する場合、100%の解約手当金を受け取ることができます。

繰り返しですが、個人事業主の場合、この解約手当金は、売上と同じように課税されます。

よって、掛金支払時と同様の税率38%、解約手当金が200万の時の解約時のキャッシュフローは以下になります。

④解約手当金の入金によるキャッシュフローの増加 +200万

⑤解約手当金に対する課税対するキャッシュフロー減少 △76万

⑥倒産防止共済解約時のキャッシュフロー増加 +126万‥④+⑤

以上のように税金負担を考慮すると解約時には、トータルで126万のキャッシュフローのプラスとなります。

倒産防止共済の支払い時と解約時のキャッシュフローをトータルしてみる

倒産防止共済の支払い時と解約のキャッシュフローをトータルすると

③倒産防止共済の加入によるキャッシュフローメリット △126万

⑥倒産防止共済解約時のキャッシュフローメリット +126万

⑦倒産防止共済の期間を通じたキャッシュフロー 0 ‥③+⑥

このように倒産防止共済の加入期間を通じてキャッシュフローの観点からは一切のメリットは生じないのです。

しかも、解約時までのキャッシュフローは、③の△126万のように必ずマイナスとなってしまいます。

つまり、加入期間中は、加入しない場合に比べ、資金繰りの余裕の観点からはマイナスの効果しかないのです。

以上のように税金がでることを理由に倒産防止共済の加入をしてしまうと、

①解約時までは、資金繰り的にはマイナス

②解約期間を通じたキャッシュフローのメリットはゼロ

となってしまいかねません。

倒産防止共済の節税によるキャッシュフローメリットがあるケース

倒産防止共済加入のキャッシュフローの観点からメリットがあるケースは、倒産防止共済の「加入時の所得税率>解約時の所得税率」となるケースです。

所得税は、所得が高ければ高いほど、税率が5%から45%と上昇します。

所得税率表

加入時の所得が多額で所得税率が高い場合、掛金支払時の節税効果が、解約時の課税を上回るのです。

そして、掛金支払時の所得税率が解約時の所得税率を下回る場合には、

①解約時までは、資金繰り的にはマイナス

②解約期間を通じたキャッシュフローのメリットはマイナス

となってしまい、完全にデメリットしかありません。

加入の際には、所得税率が通常時より特に高ることを確認し、そのメリット額を予想してから加入することが必要です。

倒産防止共済はある意味では投資です。

資金繰り的に余裕がある範囲で無理なく行うことが大切です。

キャッシュフローの観点からは、多くの場合で倒産防止共済のメリットはありません。

よって、「税金がでるから」「税金が重たいから」を理由に倒産防止共済に加入されないようにしてください。

佐藤 修一

佐藤修一公認会計士事務所代表

(九州北部税理士会福岡支部所属:登録番号028716) 公認会計士・税理士。全国の中小企業にこれまでクラウド会計導入実績累計300社超、クラウド会計導入率70%超。2022年freee西日本最優秀アドバイザー、マネーフォワードプラチナメンバー。 (株)インターフェイス主催第18回経営支援全国大会優秀賞。 全国各地の中小企業に対して、会計から利益とキャッシュを稼ぐ力を高め、キャッシュフローを重視した節税提案、利益とキャッシュを稼ぐ力を高めるサポートや事業再生支援を行っている。 総勢30名のスタッフで「Warm Heart(温かい心)&Cool Head(冷静な頭)」をコンセプトに個々のお客様ごとにカスタマイズしたお客様に寄り添うサービスを提供している。