「課税の繰り延べ」って聞かれたことはありますか?
節税できるかどうかみたいな話の中で、「課税の繰り延べ」を聞いたことがある方もいるかもしれません。
「倒産防止共済は課税の繰り延べになります」みたいな感じです。
私は、これまで1000人以上の確定申告、300社以上の決算申告を行ってきた公認会計士・税理士です。
この「課税の繰り延べ」を理解することは、キャッシュを増やす節税ができるか、節税によってキャッシュを減らしてしまうかどうか分かれ道だと考えています。
本ブログでは、読んでいただけたら、
・課税の繰り延べとは何なのか?
・課税の繰り延べの具体例
・課税の繰り延べはキャッシュフローの観点から一切メリットがない理由
など知識がない方でもわかります。
「課税の繰り延べ」って何?
理解のため、まず、「課税の繰り延べ」を「課税」と「繰り延べ」に分けてます。
一般の方からすれば、「課税」も「繰り延べ」もあまり聞きなれない言葉だと思います。
「課税」=税金がかかること
「繰り延べ」=先送りすること
つまり、「課税の繰り延べ」とは「税金の支払いを先送りにすること」です。
言い換えると、税金がかかるタイミングを未来に移動させることが課税の繰り延べになります。
税金の支払いを将来にわたって消滅させることではありませんし、税金の支払い額を軽減するものでありません。
繰り延べた税金は将来必ず支払う必要があります。
支払う金額はそのままで「支払うタイミング」だけを将来に変更することが課税の繰り延べと言います。
代表的な課税の繰り延べには、倒産防止共済、法人の生命保険、4年落ちの中古車購入、30万未満の資産の購入、家賃の年払いなどがあります。
これら課税の繰り延べをやるべきかそうでないかについてですが、キャッシュフローの観点からは、課税の繰り延べはデメリットしか、生じないため、絶対にやるべきではありません。
キャッシュフローの観点から課税の繰り延べを絶対にやるべきでは理由を以下で説明したいと思います。
課税の繰り延べはどうやったらできるのか?
課税の繰り延べによって、税金の支払いを先送りにできれば、その分、現状のキャッシュの減少を回避することができます。
だとすると、課税の繰り延べはやるべきだと思う方も多いかと思います。
課税の繰り延べの効果は「税金の支払いの先送り」だけではありません。
税金を先送りにするには、その時点の税金を減少させる必要があります。
そして、税金を減らすには、経費を増やす必要があります。
・所得↓=売上-経費↑
・税金↓=所得↓×税率
課税の繰り延べには、必ず「経費の支払い」が必要となる点が、課税の繰り延べを理解する上で非常に重要となります。
つまり、税率が30%だとすると、100万円の経費の支払いをすることで初めて、30万円の税金の支払いを先送りにできるのです。
課税の繰り延べの具体例
課税の繰り延べの具体例を挙げてみます。
・倒産防止共済
掛け金を支払って、税金を先送りにして、
将来解約した時に、解約金が入金され、先送りにした税金を支払う。
・法人の節税保険
保険料を支払い、税金を先送りにして、
将来解約した時に、満期等に解約金が入金される。
・早期の経費化
早めに経費にすることで、税金を先送りにして、
将来の経費がその分増加し、税金が増加する。
早期の経費化はたくさん方法がありますが、即時償却できる資産の購入、中古車の購入、30万未満の資産購入、家賃の年払いなどがあります。
課税の繰り延べは、上記の全てがそうですが、必ず先に、経費の支払いがあり、その後、税金の減少が生じます。
課税の繰り延べのメリット・デメリットを考えてみる
課税の繰り延べは、「経費を支払う」ことで、「税金の支払いを先送り」することです。
課税の繰り延べたタイミングのキャッシュの動きで分解すると
ステップ①:経費の支払いによるキャッシュの減少
ステップ②:税金の支払いの先送りによるキャッシュフローの増加
となります。
また、その後、繰り延べられた税金を支払うタイミングのキャッシュの動きを分解すると
ステップ③:収入の発生、経費の減少によるキャッシュフローの増加
ステップ④:ステップ③に対する税金の増加によるキャッシュフローの減少
となります。
事例で説明すると、全額損金になる100万円の保険に加入したとすると、税率が30%の時、
ステップ①:100万円の保険料を支払い、
ステップ②:全額が経費となり30万円の「課税の繰り延べ」ができたとします。
その後、
ステップ③:保険料が100万円入金され、
ステップ④:売上と同じように全額が課税され、30万円の税金が増加する
ことになります。
このステップ①~④のキャッシュの動きをまとめると以下のようになります。
繰延べをした年度では、課税の繰延べによりキャッシュが30万が増加し、保険料の支払いによりキャッシュが100万減少した結果、差し引きで70万のキャッシュが減少しています。
また、繰り延べられた年度では、満期保険料の入金でキャッシュが100万増加し、それに対する税金の支払いによるキャッシュが30万減少しており、差し引きで70万のキャッシュが増加しています。
このように課税の繰り延べを行うと、繰り延べた時点では、キャッシュが70万減少してしまうデメリットが生じてしまうのです。
しかし、繰り述べた年度と繰り延べられた年度を合計すると、トータルのキャッシュフローはプラスマイナスゼロとなり、メリットも、デメリットもないことになります。
これが、キャッシュフローの観点から考えた時に課税の繰り延べを絶対にやるべきではない理由です。
課税の繰り延べを行っても、手元のキャッシュの減少しか生じないのです。
課税の繰り延べのまとめ
これまで多くの個人事業主、法人の方から節税の相談を受けることが多いのですが、そのほとんどがこの「課税の繰り延べ」に関するものです。
税金を減らしたい‥
税金をできるだけ払いたくない‥
その気持ち、考えは誰しもがあると思いますが、キャッシュを残す、キャッシュを増やすための節税が、キャッシュを残さない、キャッシュを減らす節税になってしまってしまう結果にならないよう、検討している節税が「課税の繰り延べ」になるかどうかを慎重に考えてみてください。
検討している節税方法が「課税の繰り延べ」にあたるかどうか分からない方はお気軽にご相談下さいね。
佐藤 修一
佐藤修一公認会計士事務所代表
(九州北部税理士会福岡支部所属:登録番号028716) 公認会計士・税理士。全国の中小企業にこれまでクラウド会計導入実績累計300社超、クラウド会計導入率70%超。2022年freee西日本最優秀アドバイザー、マネーフォワードプラチナメンバー。 (株)インターフェイス主催第18回経営支援全国大会優秀賞。 全国各地の中小企業に対して、会計から利益とキャッシュを稼ぐ力を高め、キャッシュフローを重視した節税提案、利益とキャッシュを稼ぐ力を高めるサポートや事業再生支援を行っている。 総勢30名のスタッフで「Warm Heart(温かい心)&Cool Head(冷静な頭)」をコンセプトに個々のお客様ごとにカスタマイズしたお客様に寄り添うサービスを提供している。