この記事では、「個人事業主が倒産防止共済の節税効果を最大限高める方法」をテーマに解説します。
これまで多くの個人事業主の方から倒産防止共済に関するご相談をいただき、実際に加入されている方の決算書も数多く拝見してきました。
しかし、倒産時の借入以外で倒産防止共済のメリットをしっかり活用している方は、ほとんどお見かけしません。
本ブログでは、これまで1000人以上の個人事業主の確定申告を行ってきた税理士が、倒産防止共済を使ってキャッシュフローを最大化する方法を解説しています。
最後まで読んでいただけたら、
- 倒産防止共済の掛金支払いと解約時におけるキャッシュフローの全体像
- 節税と解約後の税負担を見据えた、最大限メリットを得るためのタイミング
- 借入状況や所得の変動を踏まえた、加入を検討すべきポイント
がわかります。
早速この記事の結論をお伝えすると、
「高い税率のときに掛金を払い、低い税率または赤字のときに解約することで、節税効果とキャッシュフローを最大化できるが、その条件は非常に限定的」
だということです。
その結論になる理由を理解していただけるように、
- 倒産防止共済の全体的なキャッシュフロー構造
- 節税効果と解約時の課税を踏まえたメリット・デメリット
- 加入や解約のタイミング次第でキャッシュフローを最大化する具体的な方法
の順番で解説していきます。
倒産防止共済は、解約時に売上と同じように課税されてしまいます。
ですので、活用方法を間違ってしまうと、以下のような効果しか生まず、メリットが全くないどころか、デメリットしか生じないケースもあります。
- 解約時までは手元キャッシュが目減りするため、フローの観点からは確実にマイナスとなる
- 解約期間を通じたキャッシュフローのメリットはゼロかマイナスになってしまう恐れがある
こうした点については、
「ほとんどの個人事業主の倒産防止共済は節税にならず、キャッシュフローの悪化につながる理由を解説」
という別記事でも詳しく説明していますので、ぜひ以下の記事もご覧ください。
目次
倒産防止共済の全体のキャッシュフローを理解する
倒産防止共済の加入から解約までと解約時のキャッシュフローは以下の4つに分解することができます。
加入時から解約までのキャッシュフロー ①+② 334万~570万のキャッシュフローの減少
①加入から解約までの節税効果によるキャッシュフローの増加
‥最小230万~最高465万の増加
②加入から解約までの掛金支払によるキャッシュフローの減少
‥800万の減少
解約時のキャッシュフロー ③+④
③解約時の解約手当金に対する税金によるキャッシュフローの減少
④解約時の解約手当金の入金によるキャッシュフローの増加
まず、加入時から解約までの期間のキャッシュフローは、倒産防止共済に加入しない場合と比べて、確実にキャッシュフロー悪化することを理解する必要があります。
このデメリットを踏まえ、それを超えるメリットを生み出せる可能性があるかを検討する必要があるからです。
倒産防止共済は、最大800万の掛金の支払いが可能です。
個人事業主の場合、最大で倒産防止共済によって軽減できるMAX税率は、58.15%です。
ちなみにこのMAX税率になるのは、課税所得が4000万以上とかなりの高所得者の場合のみ場合です。
つまり、800万円の掛け金の減少に対して、最大で465.2万円の節税効果となり、キャッシュフローを増加させます。
一方で掛金支払により800万のキャッシュフローが減少します。
以上から節税効果がMAXの時でも解約時までのキャッシュフローを考えると、334.8万円が悪化することになります。
上記の①~④を整理すると以下のようになります。
①加入時から解約までは、掛金支出時に経費にすることができ、所得税、住民税、事業税、国民健康保険料の4つの税金を軽減できます。
②+④=0:②一方で、掛け金の支払いによって、キャッシュフローは減少しますが、④40カ月以上の加入だと、同額の金額が解約時に入金され、加入期間中トータルで考えた時のキャッシュフローへの影響はありません。
③解約時には、解約手当金に対して、売上と同様に課税され、所得税、住民税、事業税、国民健康保険料の4つの税金が増加します。
倒産防止共済のキャッシュフローメリット最大化する方法
倒産防止共済加入によって、キャッシュフロープラスの効果を得るためには、①加入時から解約時までの節税効果が③解約時の税負担を上回る必要があります。
つまり、個人事業主の全体の税率ができるだけ高い時期に多額に掛金を支払、個人事業主の税率ができるだけ低い時期に解約することで、倒産防止共済のキャッシュフローメリットが最大になります。
倒産防止共済のメリットを確実に最大化するには、以下のタイミングで解約返戻金を受け取ることです。
青色申告の3年間繰越すことができる赤字とその年の赤字の合計が掛金総額相当あり、その赤字に相当する所得が今後3年以内に生じる見込みがない年
簡単に言えば、「今まで相当の赤字があり、今後も赤字が続く場合」です。
結構、条件が限定的で、できればそうなりたくですし、このような状況を想定して、加入したくないですね。
ただ、この条件を満たせば、倒産防止共済の加入より最低240万、最高465万のャッシュフローのメリットを得ることができます。
掛金総額相当に対して、それなりの大きさの赤字と過去3年の赤字があり、その赤字に相当する所得が3年以内に生じる見込みがないタイミングでもそれなりメリットを得ることが可能です。
個人事業主が倒産防止共済の加入時に検討すべき事
個人事業主の場合、倒産防止共済の加入により、どれくらいのメリットがあるかを計算することは非常に難しいです。
なぜなら、個人事業主の税率計算は以下のように複雑だからです。
以下は興味がある方のみ見てみてください。
個人事業主の税率の計算方法
個人事業主の合計税率=所得税率×(1+2.1%)+住民税率+事業税率×{1ー翌年の所得税率×(1+2.1%)-住民税率-翌年の国民健康保険料率}+国民健康保険料率×{1-翌年の所得税率×(1+2.1%)-住民税}
所得税率は、その年の所得によって5%~45%と金額が増えれば増えるほど、高くなり、国民健康保険料率は、世帯所得が1100万を超えるぐらいから国民健康保険料の上限となるため、上昇しません。
ここで注意していただきたいのは、個人事業主の税率の計算は複雑なこと、高額な所得の場合には、個人事業主の税率は上がりやすいことです。
何となく、所得が高いからと理由で加入してもキャッシュフローのメリットがあるかどうかは、解約時の税率次第になってしまうのです。
課税所得がゼロで800万の倒産防止共済の解約の場合の税金負担を計算してみる
倒産防止共済の掛け金総額は最大800万です。
解約返戻金が800万の入金時、その他の課税所得がゼロの場合でも、税金負担合計は、300万近くになり、その税率は、35%を超えてしまいます。
税率35%と結構高い税率となります。
そして、個人事業主の中では比較的高めの税率である課税所得が695~899万の方の税率は44%ほどとなり、掛金の支払いにより掛金の44%の節税効果があります。
この方の場合解約時と掛金支払時の税率差は9%となり、800万の倒産防止共済のキャッシュフローメリットは72万ほどになります。
倒産防止共済の掛け金を支払っており、借入がある場合の考え方
この金額を魅力に感じるかどうかは、人それぞれだと思いますが、借入がある状態で、この倒産防止共済を行うかどうかは考える必要があります。
なぜなら、金利2%の800万の借入を5年間行うと、金利は40万、10年だと80万を超えるため、先ほどのケースだと、10年金利のケースだとキャッシュフローの観点からはメリットはありません。
個人事業主が倒産防止共済のキャッシュフローのメリットを最大化する方法のまとめ
倒産防止共済からメリットを得るには、掛金を支払うタイミングと解約するタイミングが重要です。
ただ、事業の所得はコントロールできないため、見方を変えればバクチ的な性格もあるように感じています。
個人的には、倒産防止共済の加入は99%のケースでおすすめしていません。
なぜなら、倒産防止共済の加入によるメリットが多額なるケースは限定的ですし、そのケースはできれば避けたい状況だからです。
そして、倒産防止共済の加入は、キャッシュフローの観点からは以下のように魅力的には感じないからです。
①解約時までキャッシュフロー的には100%メリットがない
②解約期間を通じたキャッシュフローのメリットが少額なるリスクが高い
倒産防止共済の加入を検討中で、シミュレーションなどご希望される方はお気軽にお問い合わせください。
佐藤 修一
佐藤修一公認会計士事務所代表
(九州北部税理士会福岡支部所属:登録番号028716) 公認会計士・税理士。全国の中小企業にこれまでクラウド会計導入実績累計300社超、クラウド会計導入率70%超。2022年freee西日本最優秀アドバイザー、マネーフォワードプラチナメンバー。 (株)インターフェイス主催第18回経営支援全国大会優秀賞。 全国各地の中小企業に対して、会計から利益とキャッシュを稼ぐ力を高め、キャッシュフローを重視した節税提案、利益とキャッシュを稼ぐ力を高めるサポートや事業再生支援を行っている。 総勢30名のスタッフで「Warm Heart(温かい心)&Cool Head(冷静な頭)」をコンセプトに個々のお客様ごとにカスタマイズしたお客様に寄り添うサービスを提供している。