契約者が妻の生命保険料控除は年末調整や確定申告で使えるのか?税理士が解説!
確定申告・税金


こんにちは。税理士法人Accompany代表の佐藤修一です。
年末調整や確定申告の時期にはたくさんの書類の提出が必要になり、頭がパンクしてしまう方も多いと思います。
また、「妻の名義の生命保険料控除を自分の控除書類として会社に提出できるのか?」
とお客様からご質問をいただくこともあります。
そのため、今回は自分の名義ではない生命保険契約の控除証明書を年末調整や確定申告の所得控除に使えるのか?という点に絞って解説をしていきたいと思います。
この記事で分かること
- 生命保険料控除とは何なのか分かる
- 契約者が妻の生命保険料控除は年末調整や確定申告で控除できるのか分かる
- 内縁関係の妻の契約の場合はどうなのか分かる
- 「保険料の負担者」とは誰なのか分かる
- 妻名義の契約を入れる必要がないケースとはどんな場合か分かる
- 契約者と保険料の負担者が違うことによって発生するリスクについて分かる
それでは早速見ていきましょう!
目次
生命保険料控除とは何なのか?
生命保険料控除とは、
掛金?控除?総所得金額?所得控除?と分かりづらい説明だったかもしれませんが、

生命保険料を支払ったら、内容や金額に応じて所得税が軽減されるというものです。
生命保険文化センターの調査によると、2人以上の世帯の生命保険(個人年金保険を含む)の加入率は89.20%となっており、
公益財団法人生命保険文化センター「2024(令和6)年度「生命保険に関する全国実態調査」より
日本の約9割の世帯が生命保険に加入しているという実態があり、本記事で取り上げているようなケースに該当している方は多いのではないでしょうか。
妻名義の生命保険契約は夫の生命保険料控除の対象になるのか?
早速結論なのですが、
所得税法では保険料の払込みをする者が必ずしも契約者である必要はないとされています。
そのため、契約者と実際の保険料を支払っている者が違ったとしても、
所得控除を受けようとする夫が生命保険契約の掛金を負担したことを明らかにした場合は、夫の生命保険料控除の対象とすることができます。
国税庁 質疑応答事例「妻名義の生命保険料控除証明書に基づく生命保険料控除」
内縁関係の妻の契約の場合はどうなのか?
内縁関係の妻でも生命保険会社が定める条件に当てはまれば、生命保険契約の保険金受取人にすることが可能など、生命保険の契約ルールも柔軟になりつつあると感じています。
しかし、この生命保険料控除においては、内縁関係の妻の保険契約は、夫の生命保険料控除とすることができません。
生命保険料控除の対象は「法律上の配偶者と親族に限られる」ため、内縁の妻の契約は夫の生命保険料控除の対象とならないのです。
「保険料の負担者」とは誰なのか?

「保険料の負担者」とは、実際に保険料を支払った人のことを指します。
一般的に、生命保険会社においては「保険契約者」=「保険料の負担者」という考え方が通例となっているようですが、
「保険契約者が妻」で「保険料の引き落とし先が夫の銀行口座」となっている契約も存在します。
例えばですが、専業主婦である妻の保険契約を夫名義の銀行口座から支払ったケースなど、夫が掛金を支払ったことを明らかにできる場合は生命保険料控除の対象として差し支えないとされています。
妻の生命保険料控除を職場に出しても(確定申告書に記載しても)所得税が安くならないケースとは?
実は、妻の名義の契約の生命保険料控除を職場に出したり、確定申告書に記載しても、所得税が安くならないケースがあります。
それは、

夫名義(自分名義)の契約だけで、生命保険料控除の枠を最大まで使い切っているケースです。
生命保険は加入すればするほど所得税が安くなるというわけではなく、保険の種類と掛金に応じて、所得控除の最大枠があらかじめ決まっています。
【加入中の保険が旧契約の場合(平成23年12月31日以前に締結した保険契約)】
年間の支払保険料等 | 控除額 |
---|---|
25,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
25,001円~50,000円 | 支払保険料等×1/2+12,500円 |
50,001円~100,000円 | 支払保険料等×1/4+25,000円 |
100,001円~ | 一律50,000円 |
ちなみに、旧生命保険料控除では
- 旧生命保険料(生命保険や、いわゆる第三分野とされる医療保険やがん保険・介護保険など)
- 旧個人年金保険料(条件を満たした個人年金保険)
が控除対象となり、それぞれ50,000円、2つの枠を合わせて最大で100,000円の控除となります。
それでは新契約の場合はどうでしょうか。
【加入中の保険が新契約の場合(平成24年1月1日以後に締結した保険契約)】
年間の支払保険料等 | 控除額 |
---|---|
20,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
20,001円~40,000円 | 支払保険料等×1/2+10,000円 |
40,001円~80,000円 | 支払保険料等×1/4+20,000円 |
80,001円~ | 一律40,000円 |
新契約では、下記の3つの分野の生命保険それぞれで控除が使えます。
- 新生命保険料(死亡保険などの生命保険)
- 介護医療保険料(医療保険・がん保険・介護保険など)
- 個人年金保険料(条件を満たした個人年金保険)
それぞれ40,000円、3つの枠を合わせて最大で120,000円の控除となります。
また、旧生命保険と新生命保険の両方の契約がある場合は、それぞれの掛金の金額に応じて控除額が異なります。
【新契約と旧契約の双方に加入している場合】
※一般の生命保険料控除の控除額
年間の支払保険料等 | 控除額 |
---|---|
旧生命保険料控除の年間支払保険料等が金額が60,000円を超える場合 | 上記「加入中の保険が旧契約の場合」で計算した金額(最高50,000円) |
旧生命保険料控除の年間支払保険料等の金額60,000円以下の場合 | 新生命保険料控除と旧生命保険料控除の年間支払保険料等の金額を「加入中の保険が新契約の場合」と「加入中の保険が旧契約の場合」の計算表に当てはめて計算した金額の合計額(最高40,000円) |
※個人年金保険料控除の控除額
年間の支払保険料等 | 控除額 |
---|---|
旧個人年金保険料控除の年間支払保険料等が金額が60,000円を超える場合 | 上記「加入中の保険が旧契約の場合」で計算した金額(最高50,000円) |
旧個人年金保険料控除の年間支払保険料等の金額60,000円以下の場合 | 新生命保険料控除と旧生命保険料控除の年間支払保険料等の金額を「加入中の保険が新契約の場合」と「加入中の保険が旧契約の場合」の計算表に当てはめて計算した金額の合計額(最高40,000円) |
前置きが長くなりましたが、
夫が自分で加入している生命保険の控除額がすでに下記の上限
- 旧契約のみに加入している場合は上限100,000円
- 新契約のみに加入している場合は上限120,000円
- 旧契約と新契約両方の加入している場合は120,000円
※計算結果が12万円を超えた場合は12万円の控除額となります
に達している場合は、妻名義の保険契約を控除に加えても、それ以上所得控除の金額は増えない、ということになります。
そのため、妻名義の保険契約が所得控除の対象になるのか知りたい!と思った場合は、
まずご自身の保険契約の内容を振り返って、すでに控除枠を使い切っていないか、確認されることをオススメします。
すでに控除枠を使い切っているならば、それ以上控除証明書を提出する必要はないので不要な労力を節約できます。
妻名義の保険の掛金を夫が支払うことによって発生しうるリスクとは?
生命保険料控除のことだけを考えると、所得控除の対象となる人が保険料を負担することが所得税の計算上有利になるように思われますが、
すべての契約をそのようにすることによって発生しうるリスク・デメリットも存在します。

例えば
- 満期保険金や年金・解約返戻金・死亡保険金などを受け取ったとき
- 離婚などによって生活の状況が変わる可能性
についても考慮する必要があります。
1についてですが、保険会社からお金を受け取るケースは様々な場合が想定されますが、
生命保険では「保険料の負担者」と「保険金等の受取人」の関係によって、課税関係が変わってきます。
生命保険の課税関係の一例
死亡保険を例にすると…
【妻が亡くなった場合に1,000万円の死亡保険金がおりる保険契約の場合】
契約者 | 被保険者 | 保険料負担者 | 保険金受取人 |
---|---|---|---|
妻 | 妻 | 妻 | 夫 |
上記のように契約者と保険料負担者が同じ場合は、妻が支払った保険の死亡保険金を、妻の死後、夫が受け取る、というケースに該当し、1,000万円の保険金に対して相続税が発生します。
※厳密に言うと生命保険には非課税枠がありますが、本記事では非課税枠については触れていません
しかし、同じ契約でも保険料負担者が違うと…
【妻が亡くなった場合に1,000万円の死亡保険金がおりる保険契約の場合】
契約者 | 被保険者 | 保険料負担者 | 保険金受取人 |
---|---|---|---|
妻 | 妻 | 夫 | 夫 |
夫が支払った保険の死亡保険金を、妻の死後、夫が自分で受け取る、ということになり、1,000万円の保険金に対して所得税が発生します。
これにより、想定していなかった税金が発生する可能性があります。
また、2についてですが、契約者が妻である保険契約(例えば積立型の学資保険や年金保険など)の掛金を夫が支払っていたが、その夫婦が離婚することになった場合は、
- 保険契約者は妻だが、掛金を支払ったのが夫ならば、保険の解約返戻金は妻と夫どちらのものなのか?
という問題が発生し、離婚時に揉める原因になりかねます。

契約者と保険料の負担者が異なる場合には上記のようなリスクもあるため注意しましょう。
まとめ
ここまで「自分の名義ではない生命保険契約を生命保険料控除の対象にできるのか」ということについて解説してきましたが、最後に簡単に内容をまとめたいと思います。
- 生命保険料控除とは、所得税を軽減できる所得控除の一種である
- 契約者が妻でも、保険料の負担者が夫であることを明らかにできる場合は、夫の生命保険料控除の対象となる
- 生命保険料控除には上限があるため、すでに上限を超えているかどうか、事前に確認する必要がある
- 契約者と保険料の負担者が異なる場合にはリスクやデメリットもあるため注意が必要
いかがだったでしょうか?
所得控除はここで解説した「生命保険料控除」を合わせると、全部で15種類あります。
(配偶者控除と配偶者特別控除を別々に数えています)
- ご自身の所得税がどのように計算されているのか
- 他に使えそうな所得控除がないか
この機会に、一度確認してみるといいかもしれませんね。
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佐藤 修一
税理士法人Accompany 代表
(九州北部税理士会福岡支部所属:登録番号028716) 公認会計士・税理士。全国の中小企業にこれまでクラウド会計導入実績累計300社超、クラウド会計導入率70%超。2022年freee西日本最優秀アドバイザー、マネーフォワードプラチナメンバー。 (株)インターフェイス主催第18回経営支援全国大会優秀賞。 全国各地の中小企業に対して、会計から利益とキャッシュを稼ぐ力を高め、キャッシュフローを重視した節税提案、利益とキャッシュを稼ぐ力を高めるサポートや事業再生支援を行っている。 総勢30名のスタッフで「Warm Heart(温かい心)&Cool Head(冷静な頭)」をコンセプトに個々のお客様ごとにカスタマイズしたお客様に寄り添うサービスを提供している。