免税事業者はどんな事業者がインボイスを発行すべきか?!インボイス発行による利益への影響と対策について解説

税務・節税

2023/05/25

2022/06/03

今後、適格請求書等保存方式(インボイス制度)がスタートし、その影響を間違いなく受け、またその影響が大きくなる可能性があるのが免税事業者の方々です。

まず、免税事業者の方々の一番の不安は、売上の減少ではないかと思います。

本ブログでは、適格請求書(以下、インボイス)の発行の有無によって、売上がどのように減少し、結果、利益にどの程度影響するのか。

どんな業種・ビジネスがインボイスの発行した方が良くて、しない方がいいのか。

インボイスを発行した時の消費税対策をどのようにしていくのか。

どのように価格交渉を進めていくのか。

影響が読めない時はどうするのかなどを知りたい方を対象に解説しています。

インボイスの制度概要ページ

インボイス発行するべきかの判断方法と利益減少への対策

インボイスを発行すべきかの最終的な判断は「利益」をベースに行ないますが、まずは、インボイス発行により売上がどうなるかを検討する必要があります。

売上=@単価×販売数量です。

まず、免税事業者の方にとって、インボイスするかしないで売上に3つのパターンの変化が起こることが予想されます。

①インボイス発行しても、しなくても、何も変化なし‥@単価、数量に変化がない⇒免税事業者、インボイス未発行

②インボイス発行すれば消費税分請求でき、売上は変化なし、発行しないと消費税分請求できず、売上ダウン‥@消費税分変化、数量は変化なし⇒課税事業者、インボイス発行

③インボイスを発行したら値上げになり、販売数量が減少‥消費税分@単価がアップ、数量は減少⇒シュミレーションして決める

以下、インボイスを発行することによる変化①~③のそれぞれのケースについて、インボイスを発行し、課税事業者になるべきかどうか解説していきます。

①インボイスを発行しても売上高(@単価、販売数量)に変化がないケース

この場合には、インボイスを発行しない方がより利益が多く残ることになります。

なぜなら、上記の表のように、インボイスを発行し、消費税を納税することで、消費税額相当分の利益が減少するからです。

上の表の左の列の金額は、現在の利益と同じ金額になり、インボイス制度によって、利益が減少しないケースになります。

このケースは、インボイスを発行しているかによって、買い手が影響を受けないBtoCビジネスやBtoBビジネスでも、実質値上げが可能な事業者が該当します。

このケースになることができれば理想的です。

インボイス発行しなければならないとすると、年間約60万相当の利益が減少してしまうからです。

これは、自社からすれば実質的な値引きとなり、インパクトとしては、大きな金額になることがあります。

このケースだと年間60万なので、2年で120万、5年で300万、10年で600万もの影響になってしまいます。

BtoBビジネスをされている方の場合、免税事業者のまま現状の取引単価金額の維持することは、取引先にとって、コスト負担が増えることにつながります。

例えば、これまでの取引単価が、1カ月3,300円の保守契約の場合など、取引単価が少額で10%の値上げが取引先にとって気にならないほどの金額であれば、取引価格の維持はそう難しくないかもしれません。

免税事業者として取引先のコスト負担増加・実質的な値上げをいかに交渉していくか

しかし、月額10万円を超えるような建設業の一人親方、エンジニア、デザイナー、月額コンサルティング契約など、年間トータルにすると、10%の値上げがそれなりの金額になってしまう場合には、取引先からインボイスの発行を求められることが考えられます。

よって、取引先のコスト負担が増えることについて、どのように交渉していくかが重要です。

「+αで、何かをやりますから‥」では、価格は維持できたとしても、実質的に利益は減少してしまいます。

ではどうするか?

以下のように、取引先に対しては課税事業者よりも免税事業者に対して支払う方がコスト負担が低いことを材料に交渉されてはいかがでしょうか。

以下の表は、インボイス発行が令和5年10月1日にスタートし、その後、令和11年10月1日までの免税事業者のコストを100%とした時、課税事業者のコスト負担が何%になるかの表です。

例えば、令和8年9月30日まで、消費税10%の取引の課税事業者へ支払うコストは、免税事業者に支払う場合より、7.84%(上記表107.84%-100%)も高くなるのです。

これを取引先のコスト負担で考えると、インボイス制度がスタートした後、課税事業者の請求額が消費税込みで110,000円(内消費税10,000円)だった時の取引先の実質的なコスト負担は、税抜金額である100,000円です。

消費税10,000円は、消費税を計算する際に、控除できるからです。

そして、インボイス発行しなくても100,000円×107.84%=107,840円を超えなければ、課税事業者の請求額税込110,000円、実質コスト負担の税抜100,000円よりもコスト負担が大きくなることはありません。

逆に、107,840円以下の請求額だと、取引先のコスト負担は、課税事業者に支払う場合より小さくなるのです。

よって、令和8年9月末までは、可能であれば、この価格差を根拠に、インボイス制度スタート前の税抜価格×107.84%の金額分までは取引先のコスト負担が増えないため、価格交渉してみる余地はあります。

107.84%四捨五入して、税抜価格×108%の請求額にあと2%は、実質的な値上げ交渉で、従来価格税抜価格×110%の請求が何とかできるといいですね。

また、なぜこのようなことが起きるかというと、インボイス制度に以下のような経過措置があるからです。

1)令和5年10月1日~令和8年9月30日:免税事業者への支払い×80%を「支払った消費税」に含めて消費税を計算することができ、納税額を減らせる

2)令和8年10月1日~令和11年9月30日:免税事業者への支払い×50%を「支払った消費税」に含めて消費税を計算することができ、納税額を減らせる

よって、この経過措置のおかげで、令和11年9月末までは、免税事業者への支払いも取引先の消費税軽減効果があるのです。

しかし、消費税10%で、免税事業者に対し、課税事業者へのコスト負担が、令和8年10月1日~令和11年9月30日までは、104.76%となりますが、

経過措置が終わる令和11年10月1日以降は同等のコスト負担となるため、インボイスを発行しなければ自社の利益を維持することはできなくなってしまいます。

よって、上記のような根拠で交渉していく場合、令和8年9月末、令和11年9月末と経過措置が小さくなるタイミングまでに、徐々に実質の値上げを勝ち得ていく必要があります。

ここで注意したいのが、仕事の量を増やし価格を維持することは実質的な値下げになるので、出来る限り避けた方良いでしょう。

あとは、価格は交渉の下に進めるべきで、以下の公正取引委員会が発表しているインボイス制度がスタートすることによる取引上の強い立場を利用し、価格の引き下げにつながることのないよう注意喚起しています。

あとは、インボイス制度スタートまで、時間の許す限り、インボイス制度スタート後の自社の望む取引条件交渉しつつ、どうにか利益を確保したいものです。

②インボイスを発行すれば消費税分請求できるが、発行しないと消費税分請求できず、売上がダウンしてしまうケース

このケースでは、インボイスの発行の有無によって、請求額が変わってしまいます。

BtoBの取引をしている場合、このパターンが一番多いかもしれません。

実際に、クラウド会計ソフトfreee(フリー)の行った調査によると、免税事業者から課税事業者への転換を求める大企業は半数を超えているようです。

この場合には、インボイスを発行した方が利益が多く残ることになります。

このケースは、課税事業者にならないと取引の継続が難しく、消費税相当額が請求できず、結果、課税事業者になった方が利益がより多く残るケースも含めて想定しています。

上の表では、インボイススタート前の利益が6,400,000円、インボイスがスタートし、免税のままだと5,600,000円で利益が800,000円減少してしまいます。

そして、課税事業者になれば、5,818,182円の利益と免税の時に比べると218,182円増加します。

これはインボイスを発行し課税事業者になると、売上に含まれる消費税相当額は最終的に国に納めることになりますが、仕入れや経費に含まれる消費税が消費税を納める際に控除されるからです。

このケースでは、免税事業者の時より、仕入・経費に対する消費税相当:2,400,000÷110%(1+消費税率)×10%(消費税率)=218,181円の利益が大きくなります。

この状態は、売上に含まれる消費税を国に納め、経費に含まれる消費税の負担がない状態で、消費税によって、利益に対して影響を受けていない状態ともいえます。

インボイスを発行した場合の消費税対策は

インボイスを発行した以上、消費税を納めなくてはいけません。

どうせなら、少しでも消費税を抑えたい‥

抑える方法の一つは、簡易課税を選択することです。

簡易課税とは、その名の通り、簡易的な消費税の計算方法です。

免税事業者の簡易課税の選び方ページ

簡易課税に対して、通常の消費税の計算方法を原則課税といいます。

上記の数値例で、サービス業だとした場合の簡易課税と原則課税の場合の消費税を含めた利益の比較です。

原則課税に対し、簡易課税にすれば、消費税が581,818円から400,000円へ減少し、最終利益は6,000,000円となります。

すると、インボイススタート前に比べて利益は減少しますが、その減少額は400,000円となります。

免税のままだと800,000円の利益ダウンなので、その差は結構大きくなります。

注意していただきたいのが、簡易課税を選択したからといって、必ず消費税が小さくなるわけではない点です。

原則課税と簡易課税の消費税の計算方法などの違いは以下のようになります。

原則課税 簡易課税
消費税の計算方法 原則課税納税額:(税抜売上-税抜仕入・経費※ー税抜設備投資額)×消費税率
※人件費、土地代、税金などの行政への納めるコストは含めない
簡易課税納税額:税抜売上×消費税率× 10%~60%10%:卸売業‥1種事業
20%:小売業‥2種事業
30%:製造業・建設業‥3種事業
40%:飲食業や1~3、5、6種事業以外
50%:サービス業‥5種事業
60%:不動産業‥6種事業
適用するための届出の有無 なし  前期期末日までに「簡易課税制度選択届出」を提出
継続適用 なし 2年間は強制適用

簡易課税を選択すると、原則課税に比べて消費税が高くなるかもしれません。

しかも、簡易課税はスタート後2年間は継続して適用になるため、慎重な判断が必要です。

これまで、消費税を少なくするために簡易課税を選択した結果、逆に消費税が高くなってしまったケースも見てきました。

原則課税か簡易課税を選ぶべきかは以下のように行います。

2年間の簡易課税納税額<2年間の原則課税納税額‥簡易課税有利

2年間の簡易課税納税額>2年間の原則課税納税額‥原則課税有利

2年先のことを設備投資まで見越して上記の計算を行うのは、困難なケースや簡易課税と原則課税の見込納税額がほぼ変わらない事が想定されるからです。

その場合、絶対損をしたくない方は、「原則課税」を選択することがおススメです。

「原則課税」は、売上に含まれる預かった消費税から仕入・経費・設備投資に含まれる支払った消費税を控除する方法です。

よって、原則課税の時、消費税を納めた後に残る利益は、消費税がなかったとした時の自社の利益と同額になるからです。

あとは、「課税事業者への支払いは消費税負担が小さくなるため、免税事業者ではなく、課税事業者への支払いを優先すること!」ではなくて、以下の表で免税事業者か課税事業者のいずれのコストが低くなるかを検討することが大切です。

③インボイスを発行し、消費税分価格を高くしたら、販売数量は減少してしまうケース

このケースは、比較的単価の低い飲食店(定食屋、コーヒー屋、ケーキ、デザート屋)や八百屋、花屋、肉屋など一般消費者が顧客の場合で、インボイスを発行することで、消費税分の価格アップせざるを得なくなり、販売数量が減少してしまう事業者を想定しています。

この場合は、インボイス発行するメリットと発行しないメリットを可能な限り利益ベースで比較する必要があります。

つまり、以下の1)と2)を比較します。

1)インボイス発行するメリット:仕入・経費に含まれる消費税負担がなくなる‥上記②の利益差額相当

2)インボイス発行しないメリット:販売数量が増加するメリット‥見込増加販売数×@1個当たり粗利(@売価-@仕入・材料費など)

飲食店の数値例で考えると上の表のようになります。

このケースでは、インボイス発行することで、客単価は80円アップしましたが、客数が1000人減少しています。

結果、免税の時の利益が3,100,000円、原則課税の時が2,889,394円、簡易課税の時が2,982,000円となっています。

残った利益的には、免税の方が一番大きく、免税を選択した方が儲かることになります。

では、免税を選ぶべきか‥

必ずしもそうとは言えないことがあると思います。

年間300日の営業だとすると、1000人減るということは、1日約3.3人、全体の10%減少します。

その分の仕入・仕込・オーダー・調理・片づけ・レジの手間・時間は少なくなります。

今が、時間的な余裕がなく、体力的にギリギリで回りしているのであれば、あえて利益を少なくする選択もあるかもしれません。

しかし、10%でも価格を上げることは、競合店舗が価格を据え置く場合、客離れにつながる可能性があるため、慎重な判断が必要です。

また、どうしてもこのようなシュミレーションができない方もいらっしゃると思います。

その場合には、一旦、インボイス制度スタート時には、インボイスを発行せず、価格を据え置くのが無難だと思います。

なぜなら、インボイスを発行し価格を上げた結果、客数が急減し、売上が大きく減少し、結果、赤字になってしまう事があり得るからです。

また、インボイス制度スタート後にはじめて、競合店舗・競合他社の価格の値上げの有無を一通り把握することができます。

そして、値上げにより顧客がどう反応したかの動きを見てからインボイスを発行するかどうかを決めても遅くはないからです。

ただ、明らかに、価格アップが大きな客離れにつながることが想定される場合には、インボイススタートまでに長期的な視点で各種対策が必要です。

値上げによる客数の減少が大きい商品・サービスは価格弾力性が大きい商品・サービスと言います。

今後、価格弾力性が大きい商品・サービスの価格弾力性をいかに小さくするかが、インボイススタートまでに行う長期的な対策になります。

価格弾力性が大きい商品・サービスの特徴

・顧客の選択肢に入る他社商品・サービスが多い
・他社商品・サービスとの違いが顧客に分かりにくい
・価格の比較がしやすい
・顧客層の財布のひもが固い、予算が少ない(子育て中の主婦層、中高生など)
・日常的に利用される商品・サービス

価格が安いほど、購入されやすい商品・サービスの特徴は以上のようなものがありますが、逆を言えば、

・顧客の選択肢に入る他社商品・サービスが少ない
・他社商品・サービスとの違いが顧客に分かりすい
・価格の比較がしにくい
・顧客層の財布のひもが緩い、予算が多い(年収が高い、シニア層)
・特別な日・場に利用される商品・サービス

上記のような商品・サービスは、価格弾力性が小さく、多少の価格差では選択肢が変わることがありません。

よって、

・自社の商品・サービスの価格弾力性が大きい理由はなぜか?
どんな顧客がどんなニーズをもっているか
競合他社はどんな顧客にどんな商品・サービスをいくらで提供しているか などなど

・自社の強みを活かしつつ、どうやったら価格弾力性を小さくなるか?
方法:「誰に」×「何を」×「どうやって」「いくらで」「提供する」などなど

上記を検討しつつ、インボイスがスタートする令和5年10月1日までに、価格弾力性を小さくなるよう、まずは、情報を集め、集めた情報をもとに、アクション、アクション、アクションで進めてみてはいかがでしょうか。

免税事業者のインボイス対策のまとめ

このように同じ免税事業者でも、その影響は大きく異なることが想定されます。

そして、その影響やビジネスの内容によってその対策も異なります。

インボイス制度がスタートするまでに免税事業者の方におすすめしたいことは以下の2つです。

①計算・シュミレーションすること

②長期的な視点で考えること

まずは、インボイスがスタートすると、利益が免税事業者と課税事業者の場合でどのように変わるのかを色んなパターンで計算してみることが大切だと思います。

「売上でなく、利益がいくら変わるのか」です。

売上が多少減ったとしても、利益への影響が小さい場合には、あえて、利益を小さくする方法を選択することも考えられます。

次に、シュミレーションした結果利益が不足していた場合、インボイスがスタートするまでだけでなく、インボイスがスタートした後の期間を含め、

長期的に、多少の価格の影響は受けにくい商品・サービス作りを行うことが必要かと思います。

インボイスがスタートした後に利益を減らさないためには、「客数・販売数量を大きく減少させず、値上げを行うこと」が必要です。

そのためには、価格弾力性を小さくすることが必要です。

また、短期的に価格弾力性を小さくなったとしても、その後、競合他社と違いが小さくなり、安売りしないと売れない商品・サービスだと短期間の利益で終わってしまいます。

息の長い価格弾力性の小さい商品・サービス作りが必要です。

そして、いくら魅力的な商品・サービスでも、使ってもらって初めて、その良さが分かります。

よって、商品・サービスの魅力をどのように伝えるかも、商品・サービス作りと同じくらい大切だと思います。

猶予期間が令和11年9月末に終了します。

猶予期間まで含めるとまだまだ期間があるため、十分に対策を取ることができる期間があると思います。

とはいっても、動き出しが早いほど、早めの成果につながります。

ぜひ、各種施策チャレンジしてみてください。

佐藤 修一

佐藤修一公認会計士事務所代表

(九州北部税理士会福岡支部所属:登録番号028716) 公認会計士・税理士。全国の中小企業にこれまでクラウド会計導入実績累計300社超、クラウド会計導入率70%超。2022年freee西日本最優秀アドバイザー、マネーフォワードプラチナメンバー。 (株)インターフェイス主催第18回経営支援全国大会優秀賞。 全国各地の中小企業に対して、会計から利益とキャッシュを稼ぐ力を高め、キャッシュフローを重視した節税提案、利益とキャッシュを稼ぐ力を高めるサポートや事業再生支援を行っている。 総勢30名のスタッフで「Warm Heart(温かい心)&Cool Head(冷静な頭)」をコンセプトに個々のお客様ごとにカスタマイズしたお客様に寄り添うサービスを提供している。