粗利益率の分析はなぜ意味がないのか?粗利率を気にすると、会社が迷子になる理由

佐藤修一

こんにちは。税理士法人Accompany代表の佐藤修一です。




前回の記事(粗利益率(あらり率)と粗利益額の違い)では、「粗利益率より粗利益額を見るべき」という話をしました。


今回はその続編として、「粗利益率の分析はなぜ意味がないのか?」を、より分かりやすくお伝えします。





粗利益率は「結果の数字」。だから理由を説明できない



粗利益率はよく使われる数字ですが、実は「理由を説明できない数字」です。


なぜか?


それを分かりやすくするために、まずは料理の例えから入ります。



粗利益率は、料理でいう「最終的な味」



料理の味というのは、たくさんの要素が混ざってできています。



  • 塩の量

  • 砂糖の量

  • 醤油の量

  • 食材の種類・量

  • 火加減

  • 炒める時間



これらが全て混ざった“最終的な味”だけを見て、


「なぜ今日はこの味になったのか?」


と聞かれても、正確には答えられません。



味は「結果」であり、原因は複雑に混ざりあっているからです。





そして会計の粗利益率も、まったく同じ構造



粗利益率というのは、次のような多くの要素が混ざった「最後の味(=結果)」です。




  • 売価(P)

  • 原価(C)

  • 販売数量(Q)

  • 商品の構成比(ミックス)

  • セール・値引き

  • 仕入条件

  • 棚卸の精度

  • ロス・廃棄



つまり、料理と同じで、



粗利益率は「たくさんの要因が混ざった結果」であり、理由を特定することができない数字なのです。



料理の味だけでは改善できないように、粗利益率という“結果の味”を目的にすると、会社の改善も進みません。





粗利益率を気にすると、会社は「説明地獄」に落ちる



問題はここからです。


粗利益率が説明しにくい数字なのに、それを“目的”にしてしまうと、会社は必ず迷走します。



よくある光景:終わらない「粗利率の説明会議」




  1. 粗利益率が上がった/下がった

  2. 社長「理由を教えて」

  3. 現場「構成比・原価・棚卸…全部です」

  4. 資料作りに時間を使う

  5. 結論が出ない

  6. 改善行動は決まらない

  7. 次の月も粗利率が動く

  8. また理由を求められる



これが「粗利率を重視した会社が必ず陥るループ」です。


説明は増えるのに、改善は進まない。





なぜ粗利益率の分析は意味がないのか?



① 変動要因が多すぎて「本当の理由」が分からない



構成比、値引き、棚卸、原価、数量……。


粗利率は、これらすべての要素の影響を受けます。



「構成比の影響です」「棚卸が原因です」などと説明はできますが、


本当の原因はボヤけたまま。



② 分析しても「じゃあ何をすればいい?」が決まらない



粗利益率は「行動の指示書」にならない数字です。




  • 単価を上げても粗利率は動く

  • 単価を下げても粗利率は動く

  • 売れている商品が増えても粗利率は下がる

  • 棚卸ミスでも粗利率は変わる



こうした曖昧さが、行動を阻害します。



③ 本来見るべき数字から意識がズレる



粗利益率を気にしていると、


本当に重要な「粗利益額」と「時間当たり粗利」から意識が離れてしまうのが最大の問題です。





では何を見るべきか? —— 正解は「粗利益額」と「生産性」



① 粗利益額(商品別・サービス別)



粗利益額は、



粗利益額=数量×(売価−原価)



で決まります。
これはすべて「行動」で変えられる数字です。




  • 数量(売る)

  • 売価(上げる)

  • 原価(下げる)



粗利益額は、唯一「行動がそのまま数字に出る指標」です。



② 生産性(時間当たり粗利益)



もう一歩踏み込むと、
「時間」を使った指標が非常に役に立ちます。



時間当たり粗利益 = 粗利益額 ÷ 労働時間



労働時間は給与計算にすべて入っているので、どの会社でも計測できます。





さらに精度を高めるなら「時間当たり利益」が最強



粗利だけでなく人件費も入れて評価するなら、この指標が最強です。



時間当たり利益 = 時間当たり粗利益 − 時間当たり人件費



時間という共通のものさしで、



  • 儲かっている仕事

  • 儲かっていない仕事

  • 割に合わない作業


が明確に分かります。





まとめ:粗利益率は捨ててもよい数字



この記事の結論はとてもシンプルです。



・粗利益率の変化理由を分析しても、複雑なだけで意味がない。

・しかし粗利益率を重視すると、必ず“説明地獄”に落ちる。

・粗利率は会社を迷わせる数字。

・粗利益額と時間当たり利益こそが、会社の改善を進める数字。



経営は「どの数字を見るか」で決まります。


率ではなく、「額」と「時間」。


この視点に切り替えた瞬間、会社の改善は大きく前に進み始めます。





あわせて読みたい関連記事


佐藤 修一

税理士法人Accompany 代表

(九州北部税理士会福岡支部所属:登録番号028716) 公認会計士・税理士。全国の中小企業にこれまでクラウド会計導入実績累計300社超、クラウド会計導入率70%超。2022年freee西日本最優秀アドバイザー、マネーフォワードプラチナメンバー。 (株)インターフェイス主催第18回経営支援全国大会優秀賞。 全国各地の中小企業に対して、会計から利益とキャッシュを稼ぐ力を高め、キャッシュフローを重視した節税提案、利益とキャッシュを稼ぐ力を高めるサポートや事業再生支援を行っている。 総勢30名のスタッフで「Warm Heart(温かい心)&Cool Head(冷静な頭)」をコンセプトに個々のお客様ごとにカスタマイズしたお客様に寄り添うサービスを提供している。