2019年2月14日、法人向けの「節税商品」として販売されていた生命保険が全額損金として認められなくなりました。

2019年6月12日、生命保険協会は、生命保険会社各社に対し、これまで法人税の参考返戻率等の指標を使って節税効果を強調して販売することに対し、明確に節税効果がないことを明記して販売するよう求めました。

このような流れは、個人的には、中小企業の方々にとって良かったとのではないか考えています。

法人向けの節税対策の生命保険はキャッシュさえあれば、いくらでも法人税を抑えることができますが、2分の1損金の保険も同様ですが、全額損金の保険で法人税を少なくしたとしてもキャッシュフローが悪化してしまうからです。

節税の目的は、法人税を少なくすることだと思います。

そして法人税を少なくする目的は、より多くのキャッシュフローを会社と役員の手元に残すことだと考えています。

この前提をもとに、全額損金や半額損金(2分の1損金)の生命保険の加入より、法人税を少なくした結果、本当に多くのキャッシュフローを会社と役員の手元に残るかどうか、「法人税が少なくなり、節税でき、キャッシュフローが増える」というイメージではなく、具体的な数値例をもと検討してみたいと思います。

仮に、税引前利益が500万円が毎年発生するため、節税のために年額500万円の全額損金の保険を10年間支払い、利益をゼロにして、法人税の支払いを抑えるとします。

そして、10年後の解約返戻率80%のタイミングで返戻金全額4000万円(500万円×10年×80%)を退職金で支払ったとします。

法人向けの節税対策の生命保険を使って節税する場合としない場合で計算してみると、以下の表のように税しない場合の方が、878万円~1,228万円より多くのキャッシュフローが手元に残ることになります。

単位:万円節税しない場合節税する場合差額
①9年目累計CF3,5100△3,510
②10年CF△3,5000+3,500
③10年合計CF(欠損金考慮前)
①+②
+100△10
④欠損金節税効果※868~12180△868~1,218
⑤CF(欠損金考慮後)
③+④
878~1,2280△878~1,228

ちなみに法人税率は、資本金1000万円以下の実効税率~所得400万円は、21.6%、所得400~800万円は23.4%、所得800万円~は、34.8%で計算しています。

実効税率の詳しい説明はこちら

これは見方を変えれば、法人向けの節税対策の生命保険を使うことで5,000万円の掛け金総額が3,782万円に減少することを意味します。

なぜこのような結果になるのか、上記の事例をベースに詳細に計算してみたいと思います。

計算量が多く、分かりにくい点あるかと思いますが、これから生命保険を使った節税を検討されている方、既に生命保険を使た節税を検討されている方にとって、今後のキャッシュフローに大きく影響するため、できるだけ厳密にシュミレーションしています。

また、法人向けの節税対策の生命保険によりキャッシュフローが増加する=節税の目的を達成することができる3つの条件についてもあわせて説明したいと思います。

法人向けの節税対策の生命保険に加入しない方が多くのキャッシュフロー残る理由

まず、法人向けの生命保険を使って節税をする場合としない場合の1年間のキャッシュフローをそれぞれ計算してみます。

1年間のキャッシュフローの違いについて

1年間のキャッシュフロー
単位:万円
節税しない場合節税する場合差額
①節税前利益5005000
②支払保険料
=全額損金
0△500+500
③節税後の利益
①+②
5000△500
④法人税
(③-400)×23.4%+400×21.6%
△1100+110
⑤税引後の利益
③+④
3900△390

シンプルにするため、税引後の利益=キャッシュフローで考えます。

すると、1年間あたり全額損金の法人向けの生命保険を使って節税した場合の方が資金が390万円少なくなっています。

9年間累計のキャッシュフローの違いについて

これを9年間累計で考えると以下のようになります。

9年間のキャッシュフロー累計
単位:万円
節税しない場合節税する場合差額
①節税前利益4,5004,5000
②支払保険料
=全額損金
0△4,500+4,500
③節税後の利益
①+②
4,5000△4,500
④法人税
(③-400)×23.4%+400×21.6%
△9900+990
⑤税引後の利益
③+④
3,5100△3,510

 

9年間の累計で計算すると法人向けの全額損金の生命保険を使って節税した場合の方がキャッシュフローが3,510万円少なくなっています。

このことが何を意味するかというと、資金繰り的には9年間、節税をすると苦しくなることを意味します。

そして、資金繰りが苦しくなった結果、借入を行う場合には、生命保険を使った節税をしない場合に比べ、さらにキャッシュフローが悪化してしまうことがあります。

10年目のキャッシュフローの違い

そして、10年目の解約返戻金の4000万円の解約返戻金を加味して考えてみます。

解約返戻金には法人税がかかりますが、同額の退職金を支給することで、法人税負担を回避したとします。

10年目のキャッシュフロー
単位:万円
節税しない場合節税する場合差額
①節税前利益5005000
②支払保険料
=全額損金
0△500+500
③受取保険料=利益04,000△4,000
④退職金=損金△4,000△4,0000
⑤節税後の利益
①+②+③+④
△3,5000+3,500
⑥法人税000
⑦税引後の利益
⑤-⑥
△3,5000+3,500

 

10年目では、全額損金を使って節税する方が3,500万円より多くのキャッシュフローが残っています。

法人向けの生命保険を使って節税する場合、10年目で9年目までのキャッシュフローのマイナスを解消し、資金繰りが落ち着くことになります。

10年累計のキャッシュフローの違い

10年累計のキャッシュフローが多い方がより、有利な選択ということになります。

10年累計のキャッシュフロー=1年目~9年目の累計のキャッシュフロー+10年目のキャッシュフロー

となるため、それぞれのケースを計算すると以下のようになります。

生命保険を使って節税しない場合(欠損金考慮前):1年目~9年目のキャッシュフロー+3,51010年目のキャッシュフロー△3,500万円=+10万円
生命保険を使って節税する場合(欠損金考慮前):1年目~9年目のキャッシュフロー010年目のキャッシュフロー0=0

節税しない場合の方が10万円のキャッシュフローが多く手元に残っており、節税する場合のキャッシュフローは10年累計でプラスマイナスゼロとなります。

さらに、生命保険を使った節税しない場合、10年目の税引後の利益が△3,500万円となっています。

つまり、欠損金が3,500万円生じているのです。

欠損金は、10年間利益と相殺することができ、11年目以降に欠損金×法人税の実効税率の節税効果があります。

法人税の実効税率は、所得400万円は、21.6%、所得400~800万円は23.4%、所得800万円~は、34.8%となるため、

欠損金の節税効果は3,500万円×21.6%~34.8%=868万円~1,218万円となります。

11年目以降の企業の継続を前提とすると、この欠損金の節税効果を加味して、両者のキャッシュフローを比較する必要があります。

そして、欠損金を加味して両者を比較すると、キャッシュフローは以下のようになります。

・生命保険を使って節税しない場合のキャッシュフロー(欠損金考慮後):878万円~1,228万円のプラス(10万円+868万円~1218万円)
・生命保険を使って節税する場合のキャッシュフロー(欠損金考慮後):0円

これまでの計算結果を表にすると以下のような結果となります。

単位:万円節税しない場合節税する場合差額
①9年目累計CF3,5100△3,510
②10年CF△3,5000+3,500
③10年合計CF(欠損金考慮前)
①+②
+100△10
④欠損金節税効果※868~12180△868~1,218
⑤CF(欠損金考慮後)
③+④
878~1,2280△878~1,228

※3,500×21.6%~34.8%

結果、法人向けの節税対策の生命保険を使って、節税しない方が878万円~1,228万円キャッシュフロー的には有利な結果になります。

当然保険は、死亡保障などが付加されるため、キャッシュフローだけで判断することはできません。

しかし、保険加入の一番の目的を節税とした場合には、保障は切り離して、キャッシュフロー的に有利になるかを考えるべきだと考えています。

仮にこの節税対策の保険商品の死亡保険金が1億円だったとします。

死亡保険金の年間の掛け金相当額は、87.8万円~122.8万円((878万円~1228万円)÷10年)となります。

死亡保険金の保険料として妥当な金額と判断できるのではあれば、この保険商品は加入すべきだと思いますが、そうでない場合には、加入すべきではないのではと考えています。

そして、このような結果になるは、法人税率を低く計算しているからでしょうか。

仮に所得金額が高く、毎年の利益が800万円超の高い法人税率36.4%の場合で計算してみます。

法人税率36.4%で計算してみると

9年間累計のキャッシュフローは以下の変化します。

9年間のキャッシュフロー累計
単位:万円
節税しない場合節税する場合差額
①節税前利益4,5004,5000
②支払保険料
=全額損金
0△4,500+4,500
③節税後の利益
②+③
4,5000△4,500
④法人税
③×36.4%
△1,6200+1,620
⑤税引後の利益
③+④
2,8800△2,880

 

9年目時点の節税しない方が累計キャッシュフローは2,880万円多くなっています。

上記の法人税率が低いケースでは、9年間の累計で考えると節税しない方がキャッシュフローが3,510万円多くなっていたので、法人税率が高くなると法人税率が低い場合に比べて節税効果が630万円(3,510万円-2,880万円)高くなっています。

また、10年目では、法人税が発生しないため、法人税が低い場合の結果と変わりません。

10年目のキャッシュフロー
単位:万円
節税しない場合節税する場合差額
①節税前利益5005000
②支払保険料
=全額損金
0△500+500
③受取保険料=利益04,000△4,000
④退職金=損金△4,000△4,0000
⑤節税後の利益
①+②+③+④
△3,5000+3,500
⑥法人税000
⑦税引後の利益
⑤-⑥
△3,5000+3,500

 

全額損金を使って節税する方が3,500万円より多くのキャッシュフローが残ることは変わりないので、以上より欠損金を加味しない場合、以下のようなキャッシュフローの違いになります。

・生命保険を使って節税しない場合(欠損金考慮前):1年目~9年目のキャッシュフロー+2,88010年目のキャッシュフロー△3,500万円=△620万円
・生命保険を使って節税する場合(欠損金考慮前):1年目~9年目のキャッシュフロー010年目のキャッシュフロー0=0

欠損金を加味しければ、節税する場合の方が620万円のキャッシュフローが多く手元に残っています。

さらに11年目以降に効果を発揮する欠損金の節税効果は3,500万円×21.6%~34.8%=868万円~1,218万円となるので、欠損金をキャッシュフローに加味すると以下のようになります。

・生命保険を使って節税しない場合(欠損金考慮後):プラス248万円~598万円(△620万円+868万円~1218万円)
・生命保険を使って節税する場合(欠損金考慮後):0円

 

法人税率が高い場合の計算結果をまとめると以下の表のようになります。

単位:万円節税しない場合節税する場合差額
①9年目累計CF2,8800△2,880
②10年CF△3,5000+3,500
③10年合計CF(欠損金考慮前)
①+②
△6200+620
④欠損金節税効果※868~12180△868~1,218
⑤CF(欠損金考慮後)
③+④
248~5980△248~598

※3,500×21.6%~34.8%

以上を踏まえると、法人税率36%を超え、高い場合でも、生命保険を使った節税を行った結果、248万円~598万円と、キャッシュフローは悪化してしまう結果になりました。

しかし、欠損金を加味しない場合には、生命保険を使った方がのキャッシュフローがより多く残っています。

これを利用すれば、生命保険を利用し、より多くのキャッシュフローを残すことが可能です。

それは、以下の3つの条件がそろった時に可能となります。

 

節税保険により手元にキャッシュフローが残る3つの条件

これまでの計算結果を表にまとめてみます。

単位:万円法人税率が21.6%~23.4%の場合法人税率が36.4%の場合
節税しない場合節税する場合差額節税しない場合節税する場合差額
①9年目累計CF3,51002,8800△2,880
②10年CF△3,5000△3,5000+3,500
③10年合計CF(欠損金考慮前)
①+②
100△10△6200+620
④欠損金節税効果868~1,2180△868~1,218868~12180△868~1,218
⑤CF(欠損金考慮後)
③+④
878~1,2280△878~1,228248~5980△248~598

 

法人税率が36.4%と高い場合、欠損金を考慮前では、節税する場合の方が620万円のキャッシュフローが多くなっています。

欠損金を加味しなくても良い場合とは、欠損金を利用しないケースで、欠損金を利用しないケースとは、事業を完全に辞める時、廃業する時だと思います。

つまり、10年目で会社を完全に辞める場合には、保険を使った節税が有効になる可能性があるということです。

欠損金を考慮しない前で考えると、法人税の実効税率21.6%~23.4%と低い場合には、生命保険を使った節税を行なった場合のキャッシュフローの差額は10万円のマイナスなので、法人税率が低い場合には、キャッシュフローのメリットはありません。

しかし、所得が毎年800万円を超え、法人税率が36.4%が高く、生命保険の解約返戻率が高い場合には、全額損金による保険が会社又は役員の手元に残るキャッシュフローを増加させる効果があることを示します。

仮に解約返戻金が3,380万円(解約返戻金4,000万円-欠損金考慮前のキャッシュフローメリット620万円)となった場合、保険に加入する場合としない場合では、キャッシュフロー的に考えると同じ結果となります。

解約返戻金3,380万円÷保険料総額5,000万円=67.6%となり、保険によるキャッシュフローメリットがゼロになる時の解約返戻率は67.6%となります。

以上から、資本金1000万円以下の法人の場合、以下の3つの条件がそろった時は、会社又は役員の手元に残るキャッシュフローを増加させる効果が生じることになります。

①解約時に事業を辞めること
②保険により法人税率が36.4%以上の所得を減らすことができること
③解約返戻率が67.6%を超える

その他、実質解約返戻率が100%を超えるかそれに近い保険で法人税率が36.4%を超え、法人税率が21.6%~23.4%と低い時に解約するケースなど税率差を利用し、生命保険の節税効果でキャッシュフローメリットが出る場合がありますが、ここでは、退職金と保険を相殺することのみを前提に計算しています。

 

まとめ

くどいようですが節税の目的は、キャッシュフローを改善することだと考えています。

法人税を含め、税金は誰しもが少しでも抑えたいと考えていると思います。

税金は一度払ったら戻ってきません‥

特に、業績好調で、決算が近づいてくると、法人税のことがちらついてきます。

節税したい…弊所のお客様から数多くお声をいただきます。

法人税は利益に対して課税されるため、せっかくの利益を少しでも残したいと考えるのは当たり前です。

しかし、法人向けの節税対策の生命保険は、上記の3つ条件がそろう場合以外は、有効は節税になりにくいケースがほとんどではないかと思います。

経営を行っていく上で、継続的に一定規模の利益を出し続けていくことは簡単ではありません。

ある保険会社の代理店の方がこうおっしゃっていました。

「法人保険は、難しいからね、だって毎年利益がある会社はほとんどないもん」

保険はシンプルで確実に法人税を少なくできるため、これまで保険を使った節税の誘惑にかられたことがゼロかと言えばそうではありません。

しかし、法人向けの節税対策の生命保険は、多くの場合、資金繰り、長期的なキャッシュフローを悪化させてしまい、企業の自由に使える大切な利益を減らし、財務を悪化させてしまいます。

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無借金で全く資金繰りに不安が無く、今後投資する資金を十分に保有しており、業績悪化に対する資金を十分に保有している企業などで必要以上に手元に資金がだぶついている場合などは、保険によるキャッシュフローメリット金額を加味して保険加入を検討する余地はあるかと思います。

しかし、それ以外の場合では、法人向けの節税対策の生命保険を選択するのではなく、法人税を支払うことで、まずは、より多くの資金を保有し、各種リスクに備え、投資余力を高めることが大切ではないかと考えています。