
こんにちは。税理士法人Accompany代表の佐藤修一です。
「決算ギリギリに未払計上すれば節税できるらしい」と相談されることがありますが、これは半分正解で半分誤解です。
確かに、未払計上は当期の費用を先に認識できるため、利益が下がる → 法人税が下がる という意味では節税になります。
しかし、税務署は未払計上を非常に警戒しています。
理由は、「実態のない費用を決算テクニックで積みやすい」からです。
そのため、要件を満たしていない未払いは、税務調査で否認される可能性が高く、追徴課税が発生するリスクもあります。
結論、未払計上で節税はできますが、「正しい未払い」に限られますので、正しい未払いについて解説をしていきます。
反対に支払っても経費にならないこともあります↓
目次
そもそも未払計上とは?
未払計上とは、すでにサービスや作業は完了しているけれど、まだ支払っていない費用を負債として計上することです。
- 請求書の到着の有無は関係なし
- 現金主義ではなく「発生主義」に基づく会計処理
- 経理ではよく使う科目(外注費・報酬・工事費・残業代など)
ポイントは、サービス提供が完了しているかどうかです。
これが未完了のまま「節税目的」で計上するとアウトです。
未払計上が節税になる仕組み
法人税上経費にできるかどうかは「お金を払ったかどうか」ではなくその期間に発生した費用かどうか
で決まります。
つまり、
12月にサービス提供済(支払は1月)→この場合は12月決算に費用として入れてOK。
お金を支払ったタイミングではなく、サービスの提供が完了した時点で費用を計上することを「発生主義」といいます。
この「発生主義」をうまく使うと節税のように見えますが、
実態としては「正しく当期の費用を落としているだけ」です。
税務署がみる「未払として認められる3要件」
税務署は未払計上に厳しい目を向けます。
認められるのは、次の3つの条件をすべて満たす場合です。
1. 役務提供(サービス提供)が完了していること
- 工事が完了している
- デザイン納品済
- コンサル支援が当月分終わっている
「まだ着工していません」は絶対NGです。
2. 支払義務が確定していること
- 契約書がある
- メールでも双方の合意が取れている
- 見積書に基づいた依頼内容が確定している
口約束のみでは危険です。
3. 金額が合理的に見積れること
- 請求書がなくてもOK
- ただし見積書や契約書など根拠が必要
この3つのうち、1つでも欠けると否認リスクが高いです。
認められる未払の具体例
以下は税務署から見ても普通に認められる未払いです。
- 12月までに完了したホームページ改修工事
- 月末締めの外注費・デザイナー費用
- 士業(税理士・社労士・弁護士)の月額報酬
- 広告掲載が12月分まで終わっている広告費
- 12月分の残業代(支払いは翌月)
→ ポイントは「サービス提供済みであること」です。
節税目的でやりがちなNG例(否認されやすい)
実務で一番問題になるのはこのパターンです。
節税したい気持ちが先走ると起こりがちです。
❌1. まだ作業していない工事を未払計上
例:見積書だけで計上
❌2. 合意も内容も曖昧なコンサル費
契約書なし、メール履歴もなし → 「実態なし」と判断される可能性が高いです。
❌3. 決算月に突然大きく計上される外注費
税務調査官が最も疑うパターン。サービスの提供が決算月以降になるものはNGです。
❌4. 決算後半年以上支払わない
「そもそも払う気がなかったのでは?」と疑われます。
税務調査で指摘される典型パターン5つ
実務でよくある否認をまとめるとこうなります。
- 過去の決算に未払がないのに、今年だけ急に大きい
- 相手先に確認したら「まだ作業してません」と言われる
- 請求書が出てこない・作業報告書もない
- 決算後も支払われず、負債だけ残っている
- 消費税の課税時期がズレている(誤仕訳)
決算で急に未払を積む会社は狙われがちです。
消費税の注意点
未払の問題は法人税だけではありません。
消費税の課税時期にも影響します。消費税も同様にサービス提供が完了したタイミングで認識します。
- サービス提供月が課税時期(請求書の月ではない)
- 未払計上したのに消費税を計上していない
- 逆に、サービス未提供なのに消費税を先に計上している
これらは誤申告の原因になります。
サービス提供が完了していないのに未払で費用を計上すると、法人税・消費税のダブル否認のリスクになります。
決算で使える!未払計上のチェックリスト
以下を満たしていれば、未払計上して問題ないことが多いです。
- サービス提供が完了している
- 契約書またはメールでの合意がある
- 見積書・発注書など金額の根拠がある
- 決算後1〜2ヶ月以内に支払う予定がある
- 過去の決算に比べて不自然に大きくない
- 相手先に確認したら「作業完了」と言われる
これらを整えておけば、税務調査でも説明しやすいです。
まとめ:未払計上は正しく使えば節税、誤れば否認リスク
未払計上は、「うまくやれば税金が安くなるテクニック」というよりも、
本来その期に発生した費用を、正しくその期に計上するための会計処理です。
たまたま当期の利益が下がることで税負担が軽くなることはありますが、
それはあくまで結果であって、目的が「節税」になった瞬間に判断を誤りやすくなります。
特に、
- サービスがまだ完了していない
- 金額や内容が曖昧
- 決算直前に慌てて積んだ未払
こうした未払計上は、税務署から見れば
「費用を前倒ししただけでは?」と疑われやすく、否認リスクが高くなります。
一方で、
- サービス提供が完了している
- 契約や合意が確認できる
- 金額に合理性がある
- 決算後にきちんと支払われている
このような未払であれば、法人税・消費税ともに問題になることはほとんどありません。
また、未払計上は法人税だけでなく、
消費税の課税時期とも必ずセットで考える必要がある点も重要です。
費用は当期、消費税は翌期、といった処理のズレは、税務調査で指摘されやすい典型例です。
決算対策として未払計上を検討する場合は、
「本当にその期の費用と言えるか?」
「第三者に説明して納得してもらえるか?」
という視点で一度立ち止まって確認することが大切です。
佐藤 修一
税理士法人Accompany 代表
(九州北部税理士会福岡支部所属:登録番号028716) 公認会計士・税理士。全国の中小企業にこれまでクラウド会計導入実績累計300社超、クラウド会計導入率70%超。2022年freee西日本最優秀アドバイザー、マネーフォワードプラチナメンバー。 (株)インターフェイス主催第18回経営支援全国大会優秀賞。 全国各地の中小企業に対して、会計から利益とキャッシュを稼ぐ力を高め、キャッシュフローを重視した節税提案、利益とキャッシュを稼ぐ力を高めるサポートや事業再生支援を行っている。 総勢30名のスタッフで「Warm Heart(温かい心)&Cool Head(冷静な頭)」をコンセプトに個々のお客様ごとにカスタマイズしたお客様に寄り添うサービスを提供している。






