
こんにちは。税理士法人Accompany代表の佐藤修一です。
パートの社会保険加入は本当に負担なのか?
経営者が知るべき“実質コスト”と従業員説明のポイント
パートの社会保険加入をめぐって、
- 「人件費が増える」
- 「従業員の手取りが減る」
- 「扶養から外れるのが不安」
といった声が会社・従業員双方から上がります。
しかし実務を整理すると、
会社の負担額・従業員の実質負担・年金メリット・加入要件が混同されている
ことが、働き控え問題の最大の原因です。
この記事では、
- 社会保険の加入要件
- 経営者が負担する実質コスト(時給換算)
- 従業員が負担する年金額と、将来受け取る年金増額の比較
- 傷病手当金などの補足メリット
- 制度設計・運用のポイント
を分かりやすく解説しています。
目次
1. パートの社会保険加入要件(まずここから確認)
1-1. 週20時間以上の短時間労働者の加入要件
次の条件を満たすと社会保険加入が必須になります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金88,000円以上
- 勤務が2か月超見込み
- 学生でない
- 従業員101人以上の会社(2024年10月から51人以上)
1-2. 4分の3基準(会社規模に関係なく加入)
所定労働時間・日数が正社員の4分の3以上であれば、会社規模に関係なく加入が義務化されます。
2. 経営者が負担するコスト:いくら増えるのか?
2-1. 月額ベースの会社負担
例:パート月給110,000円の場合
- 健康保険(会社負担):約5,000〜6,000円
- 厚生年金(会社負担):約10,000円
合計:月15,000〜17,000円 = 年間18万〜20万円の追加人件費
2-2. 時給ベースで見ると「何%コストが増えるのか?」
月額よりも、時給換算の方が経営判断しやすいため、具体例で示します。
ケース①:時給1,100円、週20h → 25hへ変更(社保加入)
- 加入前:月88,000円(80時間)=時給コスト1,100円
- 加入後:月110,000円+社保16,000円=126,000円(100時間)
時給コスト 126,000 ÷ 100=1,260円
増加率 1,260円 − 1,100円=+160円 → 約14.5%コスト増
ケース②:社保加入コースは時給+30円で運用
加入後時給1,130円 × 100h=113,000円 +社保16,000円=129,000円
時給コスト 129,000 ÷ 100=1,290円
増加率 1,290 − 1,100=+190円 → 約17.3%コスト増
つまり、
社保加入で会社負担は時給ベースで「約15〜17%」増えるのが現実値です。
この数字を基準に、 「生産性・粗利・戦力性で十分回収できるか?」を判断するのが経営的な考え方になります。
3. 従業員が負担する年金額と、将来受給額の差額(ここが最重要)
従業員が最も誤解しているのが、
「年金保険料=損」
という考え方です。しかし、実際には、
負担額のほとんどが将来の年金として戻る
ように制度設計されています。
3-1. 従業員の年金負担額(例:月収11万円)
- 厚生年金本人負担:約10,000円/月
年間の負担額は、
10,000円 × 12ヶ月=120,000円/年
3-2. 年金は「1年間加入」で将来いくら増える?
厚生年金の増額は、月収11万円の場合、
年間 約7,000〜8,000円増
平均して7,500円/年の増額とします。
3-3. 20年間受給するとどうなる?
65歳〜85歳まで年金を受け取ると仮定すると、
7,500円 × 20年=150,000円
一方、負担額は120,000円。
→ 差額は+30,000円
つまり、
年金負担 12万円 → 受取は 15万円(+3万円の実質プラス)
これが“厚生年金は実は損じゃない”最大の理由です。
3-4. 長生きした場合は「さらに大きなプラス」になる
もし90歳まで生きた場合(25年間受給)、
7,500円 × 25年=187,500円
差額は、
187,500円 − 120,000円 = +67,500円
年金は、
- 長生きすればするほど得になる“終身の所得保障”
- 絶対に使う唯一の保険
としての価値が極めて大きい制度です。
4. 傷病手当金は「万一の保険」。主役は年金である。
従業員説明の際に誤解が多いのが、
“傷病手当金が最大のメリット”
という考え方です。
実際には、
- 傷病手当金の受給率:2〜5%程度
- 発生すれば100〜200万円相当の価値
という「まれに発生するが大きい保険」の位置づけです。
一方、年金は、
- ほぼ全員が必ず受け取る
- 一生涯支給される
という意味で、 “最大のメリットは年金である”と明確に伝えるべきです。
5. 経営者の運用判断:働き控えをなくす制度設計
5-1. 扶養内/扶養外を「最初から別コース」に分ける
- 扶養内:短時間・責任軽め・社保なし
- 扶養外:社保加入・長時間・戦力化前提
採用段階で明確に線引きすることで、 働き控えやシフト調整のストレスが大幅に減ります。
5-2. 社保加入者には時給UPを組み合わせて心理負担を軽減
本人負担の13,000円は、 時給+20〜30円でほぼ説明できるため、 会社側の追加負担(月2,000〜3,000円)で運用しやすくなります。
6. まとめ:社会保険は「負担」ではなく“仕組みの理解”と“設計次第”で武器になる
パートの社会保険加入は、
- 会社の負担は時給ベースで15〜17%増
- 従業員の年金負担は将来ほぼ全額戻る(むしろプラス)
- 傷病手当金は“万一の保険”としての価値
制度を正しく理解し、 それぞれの価値観に合わせてコース設計を行うことで、 働き控え問題は大幅に改善されます。
ぜひ御社の制度設計に役立ててください。
佐藤 修一
税理士法人Accompany 代表
(九州北部税理士会福岡支部所属:登録番号028716) 公認会計士・税理士。全国の中小企業にこれまでクラウド会計導入実績累計300社超、クラウド会計導入率70%超。2022年freee西日本最優秀アドバイザー、マネーフォワードプラチナメンバー。 (株)インターフェイス主催第18回経営支援全国大会優秀賞。 全国各地の中小企業に対して、会計から利益とキャッシュを稼ぐ力を高め、キャッシュフローを重視した節税提案、利益とキャッシュを稼ぐ力を高めるサポートや事業再生支援を行っている。 総勢30名のスタッフで「Warm Heart(温かい心)&Cool Head(冷静な頭)」をコンセプトに個々のお客様ごとにカスタマイズしたお客様に寄り添うサービスを提供している。



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