【実践編】運転資本(WC)で解明する、売上が上がるほど資金が苦しくなる「成長の罠」

佐藤修一

こんにちは。税理士法人Accompany代表の佐藤修一です。

「黒字なのに通帳が減る」…それ、異常じゃありません

決算書(P/L)では利益が出ている。
でも、銀行残高は減っていく。支払いが怖い。資金繰りが苦しい。

この現象は、経営者あるあるです。
そして原因の多くは、会計の知識不足ではなく 「利益」と「キャッシュ」が別物だと腹落ちしていないことにあります。

結論から言うと、黒字なのにお金がない最大の要因は、ほぼこれです。

運転資本が増えている(=事業に現金が吸い込まれている)

この記事では、運転資本を軸に「なぜ黒字でもお金が減るのか」を整理し、明日からできる資金繰りの改善手順まで落とし込みます。


利益は「発生」、現金は「入出金」:ここがズレの出発点

P/Lの利益は、ざっくり言えば

  • 売上:商品やサービスを提供した時点で計上(※入金とは別)
  • 費用:使った(発生した)時点で計上(※支払いとは別)

です。

一方で現金は

  • 入金があったら増える
  • 支払いがあったら減る

というだけ。

つまり、売上を計上したのに入金がまだなら、利益は増えても現金は増えません。
逆に、先に支払っていると、費用はまだでも現金は減ります。

このズレをまとめて説明できるのが 運転資本です。


運転資本とは:事業を回すために“立て替えているお金”

運転資本(ここでは「営業運転資本」)は、一般的に次の形で捉えます。

運転資本 = 売上債権(売掛金など)+ 棚卸資産(在庫)- 仕入債務(買掛金など)

  • 売掛金:売ったけどまだ回収していない(=現金が回収待ち)
  • 在庫:買ったけどまだ売れていない(=現金が在庫に変わった)
  • 買掛金:仕入れたけどまだ支払っていない(=現金がまだ出ていない)

この式の意味はシンプルで、

  • 売掛金や在庫が増えるほど、現金は減る(吸い込まれる)
  • 買掛金が増えるほど、現金は増える(支払いが先送りされる)

ということです。

そして超重要なのがここ。

利益が出ているのに現金が減る=運転資本が増えている可能性が高い


どんな時に運転資本は増えるのか(=黒字でもお金が減る)

典型パターンはこの4つです。

1) 売上が伸びた(成長しているほど資金が要る)

売上が伸びると、売掛金や在庫が“自然に”増えます。
結果、運転資本が増え、キャッシュが吸い込まれます。

成長=資金が増えるではなく、
成長=運転資本が増えやすく、むしろ資金が必要になりやすいです。

2) 回収が遅い(売掛金が膨らむ)

  • 請求が遅い
  • 入金サイトが長い(例:末締め翌々月末)
  • 入金遅延が常態化

この状態は、事業が顧客の資金繰りを肩代わりしているのと同じで、
利益が出ても現金が増えません。

3) 在庫が増えた(棚卸資産が膨らむ)

在庫は「売れれば利益」ですが、買った瞬間は現金流出です。

  • 売れる見込みで積んだ
  • 欠品恐怖で多めに持つ
  • 先行仕入れ(値上げ前の買い溜め)
  • そもそも滞留在庫がある

在庫が増えるほど、現金が在庫に変換されてロックされます。

4) 支払いが早い(買掛金が減る)

  • 仕入先への支払いサイトが短い
  • 前払いが多い
  • 早期支払割引のために支払いを早める

買掛金が減る=支払いが先に来るので、現金は減ります。


1分で腹落ちする数値例:利益+50万でも現金-300万になる

たとえば今月、

  • 税引前利益:+50万円
  • 売掛金:+200万円(回収待ちが増えた)
  • 在庫:+150万円(仕入れた)
  • 買掛金:+0万円(支払い条件は変わらず)

だとすると…

  • 運転資本の増加 = 200 + 150 − 0 = +350万円
  • ざっくり言えば、現金の動きは
    利益50万 − 運転資本増加350万 = 現金 −300万

こういうことが普通に起きます。


資金繰りを改善する手順:まずは「運転資本の増減」を見える化

改善は気合いではなく、順番で決まります。

Step1:運転資本を毎月(できれば週次)で出す

最低限、次の3つが分かればOKです。

  • 売掛金(売上債権)の残高
  • 在庫(棚卸資産)の残高
  • 買掛金(仕入債務)の残高

そして毎月、前月との差分を見ます。

  • 売掛金が増えた?(回収遅れ or 売上増)
  • 在庫が増えた?(積み上げ or 滞留)
  • 買掛金が減った?(支払い前倒し)
項目現金が増える動き(ポジティブ)現金が減る動き(ネガティブ)
売掛金回収が早くなる(減少)回収が遅くなる(増加)
在庫適正化して減らす(減少)売れ残る・買い溜める(増加)
買掛金支払いを待ってもらう(増加)すぐに支払う(減少)

Step2:日数に変換して「どこが重いか」を特定する

残高だけだと規模でブレるので、日数に直すと判断が速くなります。

  • 売上債権回転日数(DSO)
    売掛金 ÷ 月商 × 30日(目安)
  • 在庫回転日数(DIO)
    在庫 ÷ 月間原価 × 30日(目安)
  • 仕入債務回転日数(DPO)
    買掛金 ÷ 月間仕入 × 30日(目安)

そして、

キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)= DSO + DIO − DPO

これが長いほど、キャッシュが寝ている時間が長い(=資金繰りが苦しい)です。

「これらを自力ですべて管理するのは大変です。当事務所では、毎月の試算表作成と同時にキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)の推移をレポート化し、経営判断をサポートしています。」

Step3:打ち手は3つしかない(優先順位つき)

運転資本を減らす基本はこれだけです。

  1. 回収を早める(売掛金を減らす)
    • 請求の即日発行
    • 入金遅延の督促ルール化
    • 一部前受け/着手金
    • 入金サイト交渉(難しいが効く)
  2. 在庫を減らす(棚卸資産を減らす)
    • 滞留在庫の処分ルール(売切り・廃棄・返品)
    • 発注点と発注ロットの見直し
    • 安全在庫の定義(「不安」ではなく「根拠」で持つ)
  3. 支払いを遅らせる(買掛金を増やす)
    • 支払いサイト交渉
    • 支払い回数の集約
    • 前払いの削減

※注意:3は資金繰りに効きますが、取引関係を壊すと逆効果なので、1・2が先です。

Step4:「資金繰り表」で未来を見て、先に手を打つ

資金繰りが苦しい会社の共通点は、過去の数字しか見ていないことです。
未来(来月・再来月)にショートするかを、先に知るために資金繰り表を持ちます。

最小構成なら、以下で十分スタートできます。

  • 来月までの入金予定(売掛回収)
  • 来月までの支払予定(仕入・外注・家賃・人件費・税金・返済)
  • 在庫を増やす予定(大口仕入れ、季節仕込みなど)
  • 借入返済と利息

いますぐできるセルフ診断(5問)

当てはまるほど「運転資本が膨らみやすい」です。

  • 売上が急に伸びている(または新規取引が増えた)
  • 請求を締め後にまとめて出している(発行が遅い)
  • 入金遅れを“なんとなく”放置している
  • 在庫の適正量を数字で決めていない
  • 仕入・外注・支払いの条件がバラバラで管理できていない

まとめ:資金繰りは「利益」ではなく「運転資本」で読む

  • 黒字でも現金が減る主因は 運転資本の増加
  • 運転資本は 売掛金+在庫-買掛金
  • 打ち手は 回収を早める/在庫を減らす/支払いを遅らせる
  • 資金繰り表で未来を見れば、ショートはかなり防げる

佐藤 修一

税理士法人Accompany 代表

(九州北部税理士会福岡支部所属:登録番号028716) 公認会計士・税理士。全国の中小企業にこれまでクラウド会計導入実績累計300社超、クラウド会計導入率70%超。2022年freee西日本最優秀アドバイザー、マネーフォワードプラチナメンバー。 (株)インターフェイス主催第18回経営支援全国大会優秀賞。 全国各地の中小企業に対して、会計から利益とキャッシュを稼ぐ力を高め、キャッシュフローを重視した節税提案、利益とキャッシュを稼ぐ力を高めるサポートや事業再生支援を行っている。 総勢30名のスタッフで「Warm Heart(温かい心)&Cool Head(冷静な頭)」をコンセプトに個々のお客様ごとにカスタマイズしたお客様に寄り添うサービスを提供している。