
こんにちは。税理士法人Accompany代表の佐藤修一です。
法人税の申告を行う際に「繰越欠損金」は貴重な節税資源です。
しかし、繰越期間(最長10年)を過ぎると期限切れ欠損金となり、せっかくの損金が無駄になってしまいます。
そんな時に検討したいのが、役員借入金の債務免除による債務免除益との相殺という方法です。
今回はそのメリット・デメリットをわかりやすく解説し、さらに応用的な観点として「高齢役員の相続対策」や「将来の資金回収リスク」にも触れてみます。
目次
債務免除益とは?
法人が負っていた借入金などの債務を、債権者(例:社長や役員など)が免除すると、その金額は法人にとって「支払いを免れた=得をした」とみなされ、債務免除益として益金に計上されます。つまり原則として、法人税の課税対象です。
債務免除益と期限切れ欠損金の相殺とは?
繰越欠損金が期限切れを迎える前に、法人に対して積み上がっていた役員借入金を債務免除することで、その金額に相当する債務免除益が発生します。
この債務免除益に対して、期限切れ直前の欠損金を充てて課税所得を圧縮し、実質的に損金を消化できるという方法です。
役員借入金を債務免除したときのメリット
①欠損金の有効活用
繰越期限を迎えて消えてしまう予定だった欠損金を、債務免除益と相殺することで実質的に「節税」効果を得ることができます。タイミング次第では大きな税負担を回避することができます。
② 財務内容の改善
役員借入金が消えることで、法人の貸借対照表(BS)はスリムになります。負債が減り、自己資本比率が上がるため、対外的な信用力や金融機関の見方にも好影響を与えることがあります。
③ キャッシュアウトがない
帳簿上の処理だけで完結するため、現金の出入りは発生しません。資金繰りに影響を与えることなく、欠損金の活用と財務改善を同時に行える点は大きな利点です。
④ 高齢役員の相続対策になる
社長など役員が法人に貸し付けていた資金(役員借入金)は、相続時には「債権」として相続財産に含まれます。これが多額になると、相続税の課税対象が膨らみます。
ところが、生前に役員借入金を法人に対して債務免除しておけば、その分の債権は消滅するため、相続財産の圧縮につながり、相続税対策としても効果的です。しかも法人側は債務免除益を繰越欠損金で相殺すれば課税負担はなし。このように、法人・個人両面での節税効果が期待できます。
役員借入金を債務免除したときのデメリット
① 相殺しきれない場合は課税される
債務免除益の金額が繰越欠損金を上回った場合、超過分は課税対象となります。適用できる欠損金の範囲を事前に正確に把握しておかないと、かえって法人税が発生することがあります。
② 税務否認のリスクがある
債務免除という行為が、実態のない形式的なものだったり、手続きや文書が不備だった場合、税務署から「それは本当の債務免除ではない」として処理を否認される危険があります。
たとえば以下のようなケースは否認されやすいです:
- 契約書や取締役会議事録がない(債務免除の証拠不十分)
- 免除の理由が説明できない(なぜ今なのか、なぜこの金額か)
- 法人に返済能力があるのに免除している(法人が債務超過ではない、債務超過でも毎年利益がしっかり出ている)
否認を避けるためには、正当な経済合理性の説明とともに、議事録・契約書・理由説明メモ等の書面整備を確実に行う必要があります。
特に税務調査では、こうした書類の有無と整合性が厳しく問われます。
③ 将来的な資金回収の選択肢を失う
これは特に実務上重要なポイントです。資金繰りが苦しい時期、社長が私財を投入して役員借入金が積み上がることがあります。
その後、法人の業績が改善しキャッシュが潤沢になったタイミングで、「以前貸した分を返してもらおう」と思っても、既に債務免除してしまっていたら、返済は不可能です。
この場合、代わりに役員報酬を引き上げて資金を回収しようとすると、所得税+社会保険料がかかるため、回収コストが非常に高くなります。
当初から「これは回収を前提とした資金注入か?」を見極め、短期の税効果だけで判断しないことが重要です。

法人の今後の戦略を見据えて、繰越欠損金を有効に活用しましょう!
まとめ:役員借入金を債務免除する際の判断ポイント
債務免除の目的が明確か?
→ なぜ債務免除を行うのか、経済合理性が説明できるか。
単なる欠損金消化や形式的な節税では、税務否認の対象となる危険が高くなります。
✔ 役員借入金は将来返済してもらう予定だったのか?
→ 将来、資金を回収したい意思があるなら、債務免除ではなく返済を選ぶべきです。
債務免除後は二度と現金での返済は受けられません。
✔ 相続対策として有効か?
→ 高齢の役員が亡くなった際、法人への貸付金は相続財産となります。
生前に債務免除することで相続税評価額を下げる効果があります。
✔ 手続きや書面はきちんと整っているか?
→ 議事録・債務免除契約書・理由説明資料などを完備することで、税務否認の危険を軽減できます。
証拠の整備は「後からでいい」ではなく、「今、やっておく」ことが重要です。
✔ 繰越欠損金の額・期限・控除制限を正確に把握しているか?
→ 税理士と連携して、直近の法人税申告書別表で確認しましょう。
誤差や思い込みによるズレで、予定外の課税が発生するケースもあります。
✔ 法人全体の将来戦略と整合しているか?
→ 節税のために債務免除しても、法人の成長や資金戦略とズレていては意味がありません。
資本政策・役員報酬・退職金戦略などと一体で判断すべきです。
このように、債務免除による債務免除益と期限切れ欠損金の相殺は、節税と財務健全化のための有力なツールです。ただし、将来の資金戦略や相続、税務リスクも見据えたうえで、計画的に行うことが必要不可欠です。
税理士や会計士に相談してプロの目から意見を聞きながら、進めていきましょう。

佐藤 修一
税理士法人Accompany 代表
(九州北部税理士会福岡支部所属:登録番号028716) 公認会計士・税理士。全国の中小企業にこれまでクラウド会計導入実績累計300社超、クラウド会計導入率70%超。2022年freee西日本最優秀アドバイザー、マネーフォワードプラチナメンバー。 (株)インターフェイス主催第18回経営支援全国大会優秀賞。 全国各地の中小企業に対して、会計から利益とキャッシュを稼ぐ力を高め、キャッシュフローを重視した節税提案、利益とキャッシュを稼ぐ力を高めるサポートや事業再生支援を行っている。 総勢30名のスタッフで「Warm Heart(温かい心)&Cool Head(冷静な頭)」をコンセプトに個々のお客様ごとにカスタマイズしたお客様に寄り添うサービスを提供している。