開業費を償却する最適なタイミングは?(法人)

佐藤修一

こんにちは。税理士法人Accompany代表の佐藤修一です。

法人を設立して最初の決算が近づくと、よくこんな相談を受けます。

  • 「逆に、赤字なら償却しない方がいいですか?」
  • 「開業費って、いつ償却(費用化)するのが一番お得ですか?」
  • 「利益が出そうなので、開業費を落として税金を減らしたい」

結論から言うと、開業費の償却は「節税の最大化」ではなく「会社とオーナーにお金を残す設計」の中で決めるのが最適です。

この記事では、

  • 開業費の基本(何が対象?いつから?)
  • 償却のルール(任意償却の意味)
  • 最適タイミングの考え方(利益・資金繰り・銀行評価)
  • よくある落とし穴(決算対策で一気に落とす/ずっと放置)
  • 判断フローと簡単シミュレーション

を、「キャッシュフロー重視の視点」で整理します。

自社の経理をご自身で行っておられる経営者の方へ

Accompanyは、「税金だけを減らす節税」ではなく、「会社とオーナーにお金を残す節税」を大切にしています。
決算書・申告書をベースに、貴社にとって本当に意味のある選択肢を一緒に整理していきます。

そもそも開業費とは?何が対象になる?

開業費は、ざっくり言うと「法人設立〜事業開始まで(または開始直後)」に、開業準備として支払った費用のうち、一定のものを「繰延資産」として処理するものです。

開業費になりやすい例

  • 設立前後の打ち合わせ交通費
  • 事業立ち上げのための調査費・マーケ費(一定のもの)
  • 名刺・ホームページ制作費(内容によっては別科目も)
  • 開業準備期間の広告費(内容による)
  • 求人募集費(状況による)

ただし、内容によっては「広告宣伝費」・「支払手数料」・「消耗品費」・「ソフトウェア」など、開業費にせず当期費用や資産計上すべきものも混じります。

ここは実務でブレやすいので、最初にきれいに仕分けるのが重要です。

開業費の償却ルール:ポイントは「任意償却」

開業費は会計・税務上、一般的に「繰延資産」として計上し、償却して費用化します。

ここで大事なのが、開業費の償却は「任意償却」であるという点です。

任意償却とは?

  • 「毎期必ず均等に償却しなければいけない」ものではなく
  • その期に償却する金額を、会社側が決められる(0円も可能)

という性質です。

つまり、開業費は

  • 利益が出た年に多めに落とす
  • 赤字の年は落とさず翌年以降に回す

といったコントロールが可能です。

「最適なタイミング」はいつか?結論は、税金ではなく「戦略」で決める

開業費の償却は、よく「節税のために落とす」という話になりがちですが、実はそれだけで判断すると失敗しやすいです。

なぜなら、開業費の償却は本質的に税金の繰り延べ(先送り)になりやすいからです。

開業費を落とせば、その年の利益が減って税金は減ります。

でも「開業費を使ったお金」はすでに過去に出ていっており、償却したからといってキャッシュが戻るわけではありません。

だからこそ、最適タイミングは次の3つで決めるのがおすすめです。

判断軸①:その年の利益水準(黒字の質)で決める

利益が小さい年に無理に落とさない

例えば利益が100万円しかないのに、開業費300万円を全額償却すると、赤字になります。

  • 税金は減る(ゼロになる)
  • でも翌期以降、利益が出たときに使える「経費のタネ」がなくなる

という状態になります。

開業初年度は利益が安定しないことも多いので、「初年度は全部落とす」が必ずしも最適とは限りません。

逆に、利益が大きく出た年に「調整弁」として使える

任意償却の良さは、利益が想定以上に出た年に

  • 税負担を平準化する
  • 役員報酬や投資の計画と整合させる

といった調整弁として使える点にあります。

判断軸②:資金繰りとキャッシュフローで決める

開業費の償却で減るのは「税金」であって、償却した分の現金が増えるわけではありません。

ただし、税金が減る分だけ、

  • 手元資金が減りにくくなる
  • 納税資金を確保しやすくなる

ここで重要なのは、

  • 「税金を減らすために償却する」のではなく税金を
  • 「キャッシュが残るように、納税額を設計する」という順番です。

たとえば、

  • 設備投資・採用・広告など、先にキャッシュが必要な年
  • 借入返済が重く、手元資金を厚くしたい年

などは、開業費償却で税金を抑え、資金繰りの安全性を上げる判断が合理的です。

判断軸③:銀行からの見え方(与信)で決める

開業費の償却は、銀行評価にも影響します。

銀行は決算書を見るとき、

  • 利益の安定性
  • 自己資本の厚み
  • 経費の内訳の妥当性

などを見ています。

ここで、開業費を一気に落として赤字にすると、銀行からは次のように見られることがあります。

  • 「まだ収益体質が弱いのでは?」
  • 「利益が出ても、すぐ赤字になる会社なのでは?」
  • 「返済原資は大丈夫か?」

もちろん、開業直後の赤字自体が直ちに悪いわけではありません。

ただ、見せ方として赤字が続くと、融資や条件交渉が不利になりやすいのも事実です。

逆に、

  • ある程度の利益を出しながら
  • 自己資本を積み上げ
  • 必要な年だけ開業費を償却して税負担を平準化する

という決算の方が、与信面では評価されやすい傾向があります。

シンプルなシミュレーション:開業費300万円、いつ落とす?

前提(便宜上の数字です) ※損失の繰り越しは考慮外としています。

  • 開業費:300万円
  • 税率(法人税等):30%
  • 1期目利益:200万円
  • 2期目利益:800万円

【ケースA:1期目に全額償却】

特徴

  • 1期目の税金はゼロ
  • 2期目に税負担が集中
  • 1期目が赤字になり、銀行説明が必要になりやすい

【ケースB:2期目に全額償却(1期目は0円)】 

特徴

  • 税負担が平準化され、キャッシュ管理がしやすい
  • 1期目も黒字になり、銀行説明がラク
  • ただし1期目の納税資金は必要

このように、同じ300万円でも、「いつ償却するか」で

  • 税負担の偏り
  • 会社の見え方(黒字・赤字)
  • キャッシュの残り方

が変わります。

よくある失敗パターン

失敗①:決算前に「とりあえず全額落とす」

  • 税金は減るが、赤字化で銀行説明が増える
  • 翌期以降の「調整弁」がなくなる
  • そもそも資金繰りが改善するわけではない

失敗②:ずっと放置して償却しない

  • 黒字が続いて税負担だけが増える
  • どこかのタイミングでまとめて落として決算がブレる
  • 開業費の中身が時間とともに説明しにくくなる(税務調査でも不利)

税務調査の観点:開業費は「中身」が見られる

開業費は金額が大きくなりやすいので、税務調査では

  • 本当に開業費に該当するか
  • 私的支出が混じっていないか
  • 証憑・根拠が揃っているか

がチェックされやすい傾向があります。

開業費として計上するなら、最低限

  • 領収書・請求書
  • 支払先・内容
  • 開業準備との関連性(メモでOK)

をセットで残しておくのが安全です。

結論:最適タイミングは「利益×資金繰り×与信」で決める

開業費の償却タイミングは、ひとことで言うと「節税」ではなく、「経営設計」の問題です。

判断の優先順位はこの順番がおすすめです。

1.今年・来年の利益見通し(黒字の質)

2.納税資金を含めた資金繰りの安全性

3.銀行からの見え方(赤字化の説明コスト、自己資本の積み上げ)

この3つを踏まえたうえで、

  • 今年は0円
  • 今年は一部だけ
  • 利益が跳ねた年に多めに

といった形で、任意償却を“調整弁”として使うのが合理的です。

最後に

佐藤修一

参考になりましたでしょうか。

開業費の償却は、税金を減らすテクニックではありません。
キャッシュ・利益・銀行評価のバランスを整えるための経営判断です。

一度落としてしまえば、二度と使えない。
だからこそ、「今、落とす理由」が説明できないなら、無理に落とす必要はありません。

税金だけを見るか。
それとも、お金が残り続ける会社をつくるか。
開業費の償却タイミングには、そのスタンスがはっきり表れます。

今回の記事、是非参考にされてみてください。

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佐藤 修一

税理士法人Accompany 代表

(九州北部税理士会福岡支部所属:登録番号028716) 公認会計士・税理士。全国の中小企業にこれまでクラウド会計導入実績累計300社超、クラウド会計導入率70%超。2022年freee西日本最優秀アドバイザー、マネーフォワードプラチナメンバー。 (株)インターフェイス主催第18回経営支援全国大会優秀賞。 全国各地の中小企業に対して、会計から利益とキャッシュを稼ぐ力を高め、キャッシュフローを重視した節税提案、利益とキャッシュを稼ぐ力を高めるサポートや事業再生支援を行っている。 総勢30名のスタッフで「Warm Heart(温かい心)&Cool Head(冷静な頭)」をコンセプトに個々のお客様ごとにカスタマイズしたお客様に寄り添うサービスを提供している。