開業費を償却する最適なタイミングは?(個人)

佐藤修一

こんにちは。税理士法人Accompany代表の佐藤修一です。

個人事業を始めるにあたり、物件探しや備品の購入、チラシの作成など、多額の準備費用が発生したはずです。

これらの支出を「開業1年目にすべて経費にしなければならない」と思い込んでいないでしょうか。

実は、税法上の「開業費」は、個人事業主にとって非常に自由度の高い特殊な経費です。

すでに帳簿上に資産として計上している方も、これから計上する方も、その償却(経費化)のタイミングを戦略的に選ぶことで、手元に残る現金を大きく増やすことができます。

逆に言えば、この仕組みを理解せずに無計画に計上してしまうと、本来得られたはずの大きな節税メリットを永久に失ってしまうリスクもあるのです。

本記事では、実務上の判断基準となる「償却のタイミング」について、税法上の根拠に基づき詳しく解説します。

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Accompanyは、「税金だけを減らす節税」ではなく、「会社とオーナーにお金を残す節税」を大切にしています。
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開業費の法的性質と「任意償却」

税務上、開業費は「繰延資産」に該当します。

個人事業主の場合、所得税法施行令第132条および関連通達により、「任意償却」が認められています。

まず整理しておきたいのが、開業費がなぜ「経費」ではなく「資産」として扱われるのか、という点です。

「繰延資産」としての開業費

通常の経費(消耗品費や賃借料など)は、支払った年度にその効果が消滅すると考え、その年の経費として処理します。

しかし、開業のために支出した費用(広告宣伝、市場調査、会議費など)は、「開業した年だけでなく、将来にわたって収益をもたらすもの」とみなされます。

このように、支出の効果が将来に及ぶ費用のことを税務上で「繰延資産(くりのべしさん)」と呼びます。本来は経費となるべき性質のものを、一旦「資産」としてプールしておき、後から少しずつ経費(償却)にしていく仕組みです。

特例としての「任意償却」

通常、パソコンなどの固定資産や他の繰延資産(礼金など)は、法律で定められた期間(耐用年数)にわたって、均等に経費化していく必要があります。

しかし、個人事業主の開業費には、税法上の特例として「任意償却」が認められています。

  • 自由なコントロールが可能 「今年は10万円だけ経費にする」「来年は0円」「再来年は残額すべて」といったように、事業主が自分の判断で経費化する金額を決められます。
  • 期限がない 開業から何年経っても、未償却の残高がある限り、いつでも好きな年に経費として計上できます。

最適なタイミングを判断する「所得税率」の壁

結論から述べれば、最も合理的な償却タイミングは「課税所得が増え、所得税率が高くなる年」です。

日本の所得税は累進課税制度をとっており、所得が高いほど適用される税率が上がります。

同じ100万円の開業費であっても、適用される税率によって節税額(手元に残る現金)は以下のように変動します。

開業1年目は売上が不安定で、所得が低くなりがちです。

低い税率(5%や10%)が適用される年に無理に経費化するよりも、事業が軌道に乗り、高い税率(20%以上)が適用されるまで開業費を温存しておく方が、生涯の納税額を最小化できます。

実務上の留意点と戦略的判断

タイミングを計る上で、以下の3つの視点を持つことが重要です。

① 赤字の年は償却しない

所得がマイナスの状態(赤字)で開業費を償却しても、所得税はもともとゼロであるため、節税上のメリットはありません。

赤字の際は、開業費を1円も償却せず、翌年以降に持ち越すのが鉄則です。

② 社会保険料への影響

所得税の節税だけでなく、「国民健康保険料の負担軽減」という視点も欠かせません。

会社員時代の社会保険料は「給与額」に応じて決まっていましたが、個人事業主が加入する国民健康保険料は、確定申告で算出した「前年の所得」に基づいて計算されます。

仕組みのポイント: 「売上 - 経費(開業費の償却を含む)」= 所得 この「所得」の額に、お住まいの自治体ごとの保険料率を掛けて翌年の保険料が決定します。

つまり、開業費を償却して「所得」を低く抑えることは、所得税だけでなく翌年の国民健康保険料を直接的に下げる効果があるのです。

所得税率が5%や10%とそれほど高くない段階であっても、国民健康保険料の所得割(所得に応じてかかる部分)の負担は決して小さくありません。

自治体によっては、所得を一定額以下に抑えることで、保険料の大きな節約につながる場合があります。

所得税の還付だけでなく、「翌年の固定費(保険料)をいくら減らせるか」というシミュレーションも、開業費を使うタイミングを決める重要な指標となります。

③ 金融機関への評価(融資対策)

節税を優先して利益を圧縮しすぎると、銀行融資を受ける際の決算書の評価が低くなる恐れがあります。

大きな融資を検討している年は、あえて開業費を償却せず、利益(=返済能力)を確保した決算書を作成する判断も必要です。

開業費に集約できる項目の再確認

いつ引くか」と同様に重要なのが「漏れなく集計しているか」です。

開業の日までに支出した、以下の費用が対象となります。

①対象となるもの

調査費、セミナー代、名刺・パンフレット作製費、打ち合わせ代、旅費、印紙代、20万円未満の礼金など。

②対象外となるもの

10万以上の備品(固定資産として別途減価償却)、店舗の敷金(返還されるもの)、商品の仕入代金など。

まとめ

佐藤修一

参考になりましたでしょうか。

開業費は、一度経費にしてしまえば取り消せません。

まずは今年の着地予想(利益)を確認し、ご自身の適用税率を把握してください。       もし数年後に所得が伸びる予測が立つのであれば、開業費という「カード」は温存しておくのが、合理的な経営判断といえるでしょう。

具体的な償却額の計算や、他の経費との兼ね合いで判断に迷われる場合は、事業計画に照らし合わせたシミュレーションを行うことをお勧めします。

今回の記事、是非参考にされてみてください。

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佐藤 修一

税理士法人Accompany 代表

(九州北部税理士会福岡支部所属:登録番号028716) 公認会計士・税理士。全国の中小企業にこれまでクラウド会計導入実績累計300社超、クラウド会計導入率70%超。2022年freee西日本最優秀アドバイザー、マネーフォワードプラチナメンバー。 (株)インターフェイス主催第18回経営支援全国大会優秀賞。 全国各地の中小企業に対して、会計から利益とキャッシュを稼ぐ力を高め、キャッシュフローを重視した節税提案、利益とキャッシュを稼ぐ力を高めるサポートや事業再生支援を行っている。 総勢30名のスタッフで「Warm Heart(温かい心)&Cool Head(冷静な頭)」をコンセプトに個々のお客様ごとにカスタマイズしたお客様に寄り添うサービスを提供している。