安全余裕率とは損益分岐点との距離感

経営数字の見方・活用方法

2019/12/02

2014/06/27

「安全余裕率」…名前からしても、あまりイメージしやすい指標ではないと思います。

似たような指標に損益分岐点比率がありますが、個人的には、損益分岐点比率よりは、分かりやすいと感じます。

安全余裕率とは、現在の売上がどのぐらいの位置にあるのかを知る指標です。

現状の事業の状況や今後の事業計画を立てる際など、どれだけの売上数量の減少に耐えることができるか、最低限どれだけの売上数量の増加が必要か、現状や今後の計画売上と損益分岐点売上との距離感を知るための指標です。

安全余裕率を計算する際に用いる損益分岐点売上とは、売上=経費、つまり、損益ゼロになる売上のことです。安全余裕率は、言い方を変えると「現在の売上があとどれだけの数量が増加又は減少した時に損益分岐点売上になるか」を表します。

安全余裕率の計算方法は、以下のようになります。

安全余裕率(%)=(現在の売上-損益分岐点売上)÷現在の売上×100

数字の方が言葉のイメージしやすいと思います。

そして、安全余裕率がプラスの場合とマイナスの場合で意味合いが異なるので、それぞれ数値例で説明します。

安全余裕率がマイナスの場合

損益分岐点売上高が100万円、現在の売上が80万円だとします。

現在の売上では、損益分岐点売上より小さいので赤字です。

では、最低限どれだけの売上数量を増やせばいいのかを表すのが安全余裕率です。

この場合の安全余裕率は、(80-100)÷80×100=△25%

安全余裕率がマイナス25%ということは、現在の売上80万円に対して追加で数量を25%増やせば、損益分岐点売上高の100万円になることを表します。

よって、安全余裕率がマイナスの場合、あと何%を販売数量を増やせば、損益トントンになるかを表す指標になります。

この数値がゼロから離れ、低ければ低いほど、増加すべきの売上数量が大きく、改善度が高い事業と言えます。

逆にこの数値がゼロに近く、高ければ高いほど、増加すべき売上数量が少ない済む事業、改善度が低い事業といえます。

安全余裕率がプラスの場合

損益分岐点売上高が100万円で、計画している売上が110万円だとします。

計画の売上では、損益分岐点売上高より大きいので黒字です。

では、計画している売上数量があとどれくらい減少すれば、損益トントンになるのかを表すのが、安全余裕率です。

この場合の安全余裕率は(110-100)÷100×100=10%

安全余裕率がプラス10%ということは、計画している販売数量が10%減少してしまった場合、損益分岐点売上高100万円になることを表します。

よって、安全余裕率がプラスの場合、あと何%の販売数量が減少した場合、損益トントンになるかを表す指標になります。

この数値が高ければ高いほど、より大きな販売数量減少に耐えることができ、安全な事業であると言えます。

逆にこの数値が低ければ低いほど、より小さな販売数量減少にしか耐えることができず、安全度が低い事業と言えます。

安全余裕率を使う場合の注意点

安全余裕率の使う場合には注意が必要です。

売上高=販売単価×販売個数・数量です。

販売単価の増減率ではなく、個数・数量の増減率が安全余裕率で表される点を理解する必要があります。

販売単価が増減した場合には、損益分岐点売上高が増減してしまうのです。

損益分岐点売上高の計算方法で考えてみます。

損益分岐点売上高=固定費÷(1-変動比率)
変動比率=商品1個当たりの原価÷商品1個当たりの販売単価

仮に販売単価が増減した場合、変動比率が変わるため、損益分岐点売上高が増減してしまいます。

それに伴って、安全余裕率も増減してしまいます。

仮に、安全余裕率が+20%で商品の販売単価が20%減少した場合、損益トントンではなく、赤字になってしまいます。

数値例で説明した方が分かりやすいので、数量と単価が同じ割合で減少した場合の利益の変動、損益分岐点売上高の変動は以下のようになります。

販売単価 販売数量 売上高 1個当たり
商品原価
変動比率 固定費 利益 損益分岐点売上高 安全余裕率
現状 1,000 1,000 100万 400 40% 45万 15万 75万 25%
数量75%↓ 1,000 750 75万 400 40% 45万 0 75万 0%
単価75%↓ 750 1,000 75万 400 53% 45万 △10万 96万 △29%

上記の例では、現状の安全余裕率は25%です。

同じ売上750,000円ですが、

現状の販売単価は変わらないまま、数量1,000個から750個(1,000×(1-25%))へ25%ダウンしたときには、利益がゼロとなっています。

一方、単価が1,000円から750円(1,000×(1-25%))ダウン、数量が変わらないとすると、利益がゼロではなく、100,000円の赤字となってしまいます。

単価がダウンした場合には、変動比率40%から53%へ上昇し、損益分岐点売上高が964,285円と上昇しています。

理由は、1個当たりの粗利益(=限界利益)が減少したため、より多くの商品を販売しなくてはならなくなったためです。

以上のように同じ売上高の減少でも、数量の減少か単価の減少かによって利益は大きく変わります。

単価の変動は利益に対する感度が高いので注意が必要です。

安全余裕率を使う場面は、今後の売上の増減を検討する時だと思います。

そして、今後の売上の増減が単価なのか数量なのかを区別し、単価の増減が見込まれるようであれば、損益分岐点売上高を再計算し、安全余裕率を算出されてください。

損益分岐点売上についての詳しい説明

損益分岐点比率の詳しい説明

佐藤 修一

佐藤修一公認会計士事務所代表

(九州北部税理士会福岡支部所属:登録番号028716) 公認会計士・税理士。全国の中小企業にこれまでクラウド会計導入実績累計300社超、クラウド会計導入率70%超。2022年freee西日本最優秀アドバイザー、マネーフォワードプラチナメンバー。 (株)インターフェイス主催第18回経営支援全国大会優秀賞。 全国各地の中小企業に対して、会計から利益とキャッシュを稼ぐ力を高め、キャッシュフローを重視した節税提案、利益とキャッシュを稼ぐ力を高めるサポートや事業再生支援を行っている。 総勢30名のスタッフで「Warm Heart(温かい心)&Cool Head(冷静な頭)」をコンセプトに個々のお客様ごとにカスタマイズしたお客様に寄り添うサービスを提供している。