法人を設立する時に資本金をいくらに設定するか。

事業が順調に推移し、新規の取引先開拓や銀行などからの資金調達、採用面の強化など外部からの更なる信用を得たい場合など資本金をいくらまで増資するべきか検討する場面があるかと思います。

そんな時、資本金を1000万以上に増資すると、法人税や消費税の負担がどのように変化するのか。

また、節税方法のバリエーションがどのように変化するのか。

中小企業が資本金の額を増加させ、増資することで変化する法人税、消費税などの税制や受給できる補助金・助成金がどのように変化するのかついて説明しています。

その上で、おすすめの増資の仕方について解説しています。

資本金の額と各種税金・補助金制度の違いの一覧

以下の表は、資本金の額によって、違いがでてくる各種税制や補助金の違いをまとめた表になります。

 

増資のメリットは、一言で言うと、「外部からの信頼性を高める」ことです。

資本金が多額になればなるほど、取引先、銀行、求人面で信頼性は高まります。

一方、資本金の額が1000万を超えて増資を行うと、税金的に負担が大きくなり、受給できる補助金・助成金が少なくなる可能性があります。

出資、増資の仕方=何に重きを置くかは、各企業それぞれです。

まず、「法人設立時に資本金を増やすならいくらまでか?」と聞かれたら、「設立時は、資本金1000万以下がおススメです」と答えます。

その理由は、消費税免税期間が取れるためです。

 

また、「増資をするならいくらまでか?」と聞かれたら、「増資するなら資本金3000万以下がおススメです」と答えます。

その理由は、法人税の優遇税制と各種補助金・助成金を活用できるためです。

 

そして、「資本金1億円を超えることについてどう思うか?」と聞かれたら、「資本金1億円はできる限り超えない方がいいです」と答えます。

その理由は、法人税の負担が実施的に増加するためです。

特に、資本金1億円を超えると、各種の取扱いが中小企業から「大企業」となり、税金負担が特に大きくなります。

最近では、新型コロナによる影響で業績悪化した企業を中心に、JTB、毎日新聞社、スカイマーク、カッパ・クリエイト(かっぱ寿司運営)、KNT-CTホールディングス(近畿日本ツーリスト運営)などの大企業が税負担を軽減するため、資本金を1億円以下に減資しました。

対外的な体裁を気にせず、なりふり構わず、コストを削減することを優先した施策だと感じました。

更に、家電大手のシャープも減資で資本金を1億円以下にしようとしたようですが、中小企業として、税金負担を一定以下にすることは、社会的責任を果たしていないとの批判が高まり、資本金を1億円以下にすることができなかったようです。

 

あくまで、これらの考え方は、一般的なケースにおけるもので、個別のケースで考えるべき事項、シュミレーションすべきことは異なります。

よって、資本金を増資する際は、自社の場合どうなるかをシュミレーションして、増資を検討し、実行すべきだと考えています。

以下で、資本金の金額によって、異なる税制、補助金などの取扱いについて解説していきたいと思います。

 

資本金とは

まず、簡単に資本金とは何かからスタートとしたいと思います。

資本金とは、株主が会社に出資をした金額の内、資本金として設定した金額のことです。

株主は、会社にお金を払い込む見返りに株式を得ることができます。

株主は、将来株式の価値が高まることを期待し、会社に投資を行います。

会社は、株主から投資されたお金を事業で活用し、利益を増やすことで、株式の価値を高めていきます。

株主が出資した金額の全てが資本金にしなければならないわけではなく、出資した金額の半分以上を資本金とすれば良く、残りを「資本準備金」とすることができます。

 

資本金や資本準備金は、会社に何かあった時に、債権者を保護するために設定します。

資本金や資本準備金を減少させるためには、各種手続きが必要となります。

減少させるための各種手続きが資本金より資本準備金の方がゆるく、資本金の方が厳格になるという違いがあります。

資本金を増やすには、株主からの出資だけでなく、利益剰余金から振り替えで行うことができます。

 

資本金の金額と消費税の関係について

資本金1000万円以上になると、消費税が強制的にスタートします。

これまでは法人設立1期目は、自動的に消費税免税となり、

2期目は、1期目の上半期の売上か給与が1,000万以下の場合には、消費税免税となり、多くの法人で設立1期目~2期目は、消費税の納税義務は発生していませんでした。

しかし、令和5年10月1日からインボイス制度がスタートし、売上に消費税を上乗せして請求する場合、強制的に消費税の納税義務が発生してしまいます。

よって、令和5年10月1日以前までは、1期目の法人で資本金が1000万以下の場合は消費税は免除されることになります。

 

資本金の金額と均等割について

均等割とは、所得の金額に関わらず、毎年、定額で納める法人税のことです。

毎年、拠点のある都道府県と市区町村にそれぞれ支払います。

均等割の金額は、都道府県と市区町村ごとにそれぞれ決まっており、資本金の額、従業員数によって異なります。

注意していただきたいのは、均等割の計算では、資本金ではなく、「資本金+資本準備金の金額」で金額を判断することです。

以下は、福岡県、福岡市の均等割りの金額です。

均等割の金額は、都道府県、市区町村ごとに異なりますが、都道府県間、市区町村間で大きな金額の違いはなく、ほとんど変わりません。

資本金が1000万以下だと福岡県は、均等割年額21,000円、福岡市は、均等割年額50,000円の合計均等割年額71,000円となります。

また、従業員数が50名以下で資本金が1001万円~1億円以下だと福岡県に均等割年額52,500円、福岡市に均等割年額156,000円の合計均等割年額208,500円となります。

よって、資本金を1000万を超えて、増資することで均等割が年額137,500円増加します。

均等割りは毎年、必ず発生するので、その影響は長期に渡ります。

仮に資本金を1000万以下から3000万に増資すると、均等割が合計で1年で137,500円、2年で275,000円、3年で412,500円、5年で687,500円、10年で1,375,000円、20年で2,750,000円、30年で4,125,000円高くなります。

1年で考えると、気にならない金額だとしても、長期で考えた時にはそれなりの大きさ金額になります。

 

資本金の額と法人税率の関係について

資本金の額によって、法人税率は、上昇しますが、資本金1億円を超えないのであれは、以下の表のとおり、大きな違いはありません。

上記の表からは、福岡県福岡市の法人税率の表です。

 

法人税は、以下の方法で計算します。

「法人税の金額=所得×法人税率+均等割の金額」

 

法人税率も均等割の金額同様、都道府県、市区町村ごとによって異なりますが、税率に都道府県間、市区町村間に大きな違いはありません。

 

資本金の金額が1億円を超えると、

所得400万以下の金額部分に対する法人税率が7%ほど上昇し、

所得400万超800万以下の金額部分に対する法人税率が6%ほど上昇し、

所得800万を超えた金額部分に対する法人税率が3%ほど下がります。

 

資本金が大きければ、法人税率が下がる?と違和感がある方もいるかもしれません。

税負担を軽減するため、大企業が資本金の額を1億円以下に減資したと先ほどお話ししましたが、矛盾してしまいます。

資本金の金額が1億円を超えると、法人税負担は増加します。

理由は、2つです。

資本金の額が1億円を超えると、「所得計算ルール」が変わり、所得が増える

②新たな法人税である外形標準課税が発生する(後述します)

結果、法人税率は下がる一方、所得が増加し、外形標準課税が発生し、資本金の額が1億円を超えると法人税負担が増えてしまうのです。

具体的には資本金の額が1億円を超えると以下のように所得計算ルールなどが変更になります。

・所得800万未満に対する税率アップ
・交際費全額経費計上不可
・繰越欠損金(過去の赤字)の利用が所得の50%まで
例:当期の所得が3000万 未利用欠損金5000万→ 資本金1億未満の場合の所得ゼロ 資本金1億超の場合の所得1500
・30万未満の資産購入が全額経費不可
・同族会社の場合、内部留保に対して×10%~20%

 

資本金の金額と外形標準課税の関係について

先ほどの法人税率のところで出てきた外形標準課税についてです。

資本金の額が1億円を超えると、それまでなかった新たな法人税である「外形標準課税」がスタートします。

外形標準課税がスタートすると、法人税に以下の2つが加わります。

①(利益+給与+家賃等)×1.26%
②(資本金+資本準備金)×0.525%

注意していただきたいのは、外形標準課税がかかるかどうかの判断は、資本金の金額で行いますが、外形標準課税の税額計算では、資本金+資本準備金で行うことです。

特にサービス業では①が多額になります。

資本金の金額と各種中小企業向け節税・優遇税制の関係

法人税は、「法人税の金額=所得×法人税率+均等割の金額」で計算されます。

但し、国の推進する施策を実施している中小企業は、法人税が軽減され、「法人税の金額=所得×法人税率+均等割の金額-税額控除」の方法で計算することができ、法人税を負担を軽減できます。

この「税額控除」は、中小企業が負担するコストの一部を法人税を軽減する形で国が負担する制度です。

例えば、以下の2つの「税額控除」は、中小企業で使いやすい節税・優遇税制です。

・賃上げ促進税制 前年比給与アップ額×16%~42%の法人税負担減
・投資促進税制 一定金額以上の設備投資額×8%~9%の法人税負担減

これらの資本金の額が3000万円を超えると、これら「税額控除」は使えなくなります。

何か、節税できませんか?と相談された時に、一番に検討するのが、この「税額控除」です。

これらは、経費にすることで、法人税負担を軽減しつつ、さらに、「税額控除」として、コスト負担を国が肩代わりしてくれるからです。

これらの節税・優遇税制は、はまれば数百万単位の税負担を軽減することが可能です。

資本金の額を3000万までに抑えることをおススメする理由がここにあります。

但し、優遇税制は、使える期間と内容が毎年変わりますので、しっかり、最新税制に精通し、出来る限り計画的に活用することが必要です。

 

補助金・助成金と資本金の金額の関係

補助金・助成金も先ほどの節税・優遇税制と同様に国の推進する施策を実施している企業に対して、受給される制度です。

特に、中小企業においては、大企業に比べ、手厚い補助金・助成金が準備されています。

中小企業で受給しやすく便利な補助金・助成金制度は以下のようなものがあります。

・ものづくり補助金 ものづくりや新サービスの開発などに対する設備投資費用
・IT導入補助金 日々の業務の効率化や自動化のためのITツールの導入費用
・小規模持続化給付金 小規模事業者が作成した経営計画に基づいて行う販路開拓の取組費用
・キャリアアップ助成金 非正規雇用の労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成

 

これらの補助金・助成金も先ほどの優遇税制同様、毎年、受給要件、補助金対象経費、補助額の見直しが行われます。

上記の補助金・助成金は近年、継続しており、主観ですが、今後継続見込の高い補助金・助成金をピックアップしました。

これらの補助金・助成金は、業種ごとに受給できる資本金の額と従業員数が以下のように決まっています。

 

従業員数が一定人数を超えて、かつ、資本金の金額が一定金額を超えた場合にこれらの助成金・補助金は利用できなくなります。

よって、補助金・助成金を積極的に活用するかを決めた上で、もし、補助金・助成金を活用するのであれは、自社の属する業種を踏まえ、資本金の金額を上記の表の範囲内で設定する必要があります。

 

 

資本金の金額と税金負担、補助金の関係のまとめ

これまで資本金の金額と中小企業の法人税を中心とした税金負担、補助金・助成金の制度の関係について説明してきました。

以上のように法人税負担、補助金・助成金を考えると、資本金は1000万以下に抑えるのが一番です。

しかし、外部からの要請や派遣免許、紹介免許などの許認可の関係で、増資を考えざる得なくなる場面は出てくると思います。

増資する際には、可能な限り、「資本金を増やすと、長期的な視点でどんな制度が使えなくなり、いくらのコスト負担が増えそうのか」を具体的にし、

増資することで、「外部からの信頼が高まることで、具体的にどんなメリットを得ることができるか」を比較したうえで、増資に関する判断をするのが良いと考えています。