賃上げ促進税制|令和7年5月申告の法人税の申告から5年の繰越控除が可能に!
税務・節税


こんにちは。税理士法人Accompany代表の佐藤修一です。
企業が社員の賃上げに取り組む際の後押しとなる「賃上げ促進税制」。
この税制は、給与や教育訓練費を前年より一定以上増やすことで、法人税や所得税から税額控除が受けられる仕組みです。
令和7年(2025年)5月の申告から、この賃上げ促進税制の税額控除に関して大きな改正が行われました。
従来は、税額控除しきれなかった分の繰越控除は認められていませんでしたが、最大5年間まで繰り越しが可能となりました。。
これは、たとえ申告年度が赤字や税額が少なく控除しきれなくても、将来の黒字期にしっかり控除を活用できるため、賃上げのインセンティブをより強化するものとして注目されています。
この記事では、
- 令和7年5月申告からスタートする「繰越控除5年ルール」の具体的な内容
- 制度を利用する際のメリット・注意点
- 対象となる企業や申告手続きのポイント
をわかりやすく解説します。
これから賃上げを検討する経営者・経理担当者の方は、ぜひ最後までチェックしてください!
賃上げ促進税制とは?
賃上げ促進税制は、従業員の給与や教育訓練費用を前年より一定割合以上増額した企業に対し、その増額分に応じて法人税や所得税から税額控除を受けられる制度です。
賃上げを進める企業の税負担を軽減し、経済全体の賃金上昇を促すことが狙いです。
中小企業の場合、控除率が最大45%(一定要件を満たせばさらに上乗せ)と高く、給与アップの直接的な支援になります。
令和7年5月申告分からの改正ポイント:税額控除の繰越が可能に
これまでの賃上げ促進税制では、税額控除額が法人税額を上回った場合、使い切れなかった控除分は翌年度以降に繰り越すことができませんでした。
つまり、赤字や税額が少ない年度にはせっかくの賃上げの努力が税額控除として活かせず、機会損失となるケースもありました。
しかし、令和7年5月申告分からは、この控除しきれなかった部分を最大5年間にわたって繰り越して控除可能になります。
これにより、赤字期や低税額の期でも控除の権利を失わず、将来の黒字期に賃上げ分の税額控除を活かせるようになります。
繰越控除の適用条件
繰越控除を利用するためには、以下のような条件があります。
- 令和6年4月1日以降の事業年度が対象(令和7年5月申告分から適用)
- 税額控除の対象となる給与や教育訓練費が前年より一定割合以上増加していること
- 繰越控除を適用する年度でも、引き続き給与総額の増加が求められること
- 青色申告を行い、繰越税額控除額の明細書を申告書に添付すること
※必要な明細書や申告書の記載については別記事で紹介します(準備中)
繰越控除の計算方法と手続きのポイント
賃上げ促進税制における繰越控除は、次のような流れで計算・適用されます。
① 控除額の計算(初年度)
まず、当該年度の賃上げや教育訓練費の増加率に応じて、所定の控除率を用いて税額控除額を計算します。
中小企業の場合、最大で45%の控除率が適用されるケースもあります(条件あり)。
そのうえで、控除できる金額は「その年の法人税額の20%」が上限です。
例:賃上げにより算出された税額控除額:100万円
当期法人税額:300万円
控除限度:300万円 × 20% = 60万円
この場合、60万円を控除し、残りの40万円が未控除分として翌年度以降に繰り越し可能になります。
②翌年度以降の繰越適用
未控除額がある場合、翌年度以降も引き続き「給与総額が前年より増加」していることが条件になります。
この要件を満たせば、その年度の法人税額に対して、残っている未控除額を控除することが可能です(同じく控除限度は法人税額の20%まで)。
繰越できるのは最大5年間で、5年経過後に残っている未控除額は失効します。
③ 実務上の対応ポイント
青色申告を継続することが前提です。
繰越控除を適用する際は、税務申告書の別表や内訳書への記載が必要になります。
詳しくは別の記事で紹介しています。(準備中)
申告ミスや要件未達により、せっかくの繰越控除が無効になる可能性もあるため、毎年のチェック体制が重要です。
制度のメリットと注意点
【メリット】
①赤字や税額の少ない年でも努力が無駄にならない
従来は、賃上げに取り組んでもその年度が赤字であれば控除の恩恵を受けられませんでした。
しかし、繰越控除が導入されることで、将来の黒字年度に控除を活用できるようになります。
つまり、「今は赤字だけど、将来に備えて賃上げを行う」という戦略が立てやすくなります。
②中小企業ほど活用価値が高い
中小企業は控除率が高く設定されており、特に教育訓練費の上乗せなどにより最大45%の税額控除を受けられるケースもあります。
これに繰越が加われば、実質的な法人税の圧縮効果が大きくなるため、キャッシュフロー改善にもつながります。
【注意点】
①「賃上げを継続していること」が繰越適用の前提
繰越控除は、自動的に翌年度に適用されるわけではありません。
翌年以降も「給与総額が前年より増加していること」が条件です。
仮に業績悪化などで賃金総額が減少すると、その年は繰越控除の適用ができません
(ただし翌々年度以降で要件を満たせば再適用可)。
②申告ミス・管理不足による控除漏れに注意
未控除額の記録や、控除適用の申告が適切に行われないと、控除を受け損ねる可能性があります。
繰越控除の適用には、年度ごとの要件確認、控除限度額の計算、記載ミスの防止などが求められます。
顧問税理士等と連携し、年ごとの運用管理が必要です。
③制度は「時限措置」、将来の延長や見直しに注意
賃上げ促進税制は「恒久的な制度」ではなく、景気や政策方針に応じて見直されることがあります。
現行の繰越控除ルールも、将来変更・廃止の可能性があるため、最新の税制改正情報を継続的にチェックしておく必要があります。
まとめ
令和7年5月申告分からの改正により、賃上げ促進税制の税額控除が最大5年間繰り越し可能となります。
これにより、赤字や税額の少ない年に賃上げしても、将来の黒字時にその努力を税制面で取り戻すことができるようになります。
賃上げは社会的責任としても注目される取り組みですが、それに加えて税制面のメリットも見逃せません。
中小企業にとっては、資金繰りや投資余力にも関わる重要なポイントです。
ただし、制度の適用には毎年の賃金増加や、控除限度額・申告手続きなどへの対応が欠かせません。
顧問税理士や社内の経理担当と連携し、制度を確実に活用できる体制づくりが重要です。
制度の活用に不安がある場合や、具体的な対応でお悩みの際は、お気軽にご相談ください。

佐藤 修一
税理士法人Accompany 代表
(九州北部税理士会福岡支部所属:登録番号028716) 公認会計士・税理士。全国の中小企業にこれまでクラウド会計導入実績累計300社超、クラウド会計導入率70%超。2022年freee西日本最優秀アドバイザー、マネーフォワードプラチナメンバー。 (株)インターフェイス主催第18回経営支援全国大会優秀賞。 全国各地の中小企業に対して、会計から利益とキャッシュを稼ぐ力を高め、キャッシュフローを重視した節税提案、利益とキャッシュを稼ぐ力を高めるサポートや事業再生支援を行っている。 総勢30名のスタッフで「Warm Heart(温かい心)&Cool Head(冷静な頭)」をコンセプトに個々のお客様ごとにカスタマイズしたお客様に寄り添うサービスを提供している。