就活・転職の際の税理士事務所・会計事務所の違いの見分け方と選び方
その他
2020/09/23
2019/05/06
これから初めて税理士事務所・会計事務所に就職を希望されている方、転職を検討されている方向けに就職後、こんなはずじゃなかった‥等、ミスマッチがないよう税理士事務所の選び方についてまとめています。
まず、税理士事務所への就職、転職を考える上では一番重視すべきは、賃金、職場環境なども重要ですが、ご自身の今後のキャリア、勤務することによって得たい専門性が何かだと思います。
当然ですが、就職することが目的ではなく、税理士事務所・会計事務所で勤務することでどんな経験を積むことができ、成長できるのか、そして、得たスキル、経験によって活躍できるフィールドで自身がやりがいを感じることができそうかのイメージがスタートになるかと思います。
今後、AIやRPAなどが発達し、特に今後、税理士事務所の業務内容の変化は著しいと思います。
そして、最近は、業務内容、サービスの特徴が異なる税理士事務所が増えてきています。
就職する税理士事務所がどの業務に力を入れているかどうかによって、得られる知識、経験は大きく異なります。
まず、税理士事務所ごとに異なるサービスの特徴=業務内容について説明していきます。
税理士事務所のタイプ別の業務内容の特徴
税理士事務所を業務内容をタイプ別に分けると以下に分類されます。
2.相続税・事業承継特化型の税理士事務所
3.創業支援特化型税理士事務所
4.業種特化型税理士事務所
5.経営支援型税理士事務所
以上のように1~5に分けられますが、それぞれが完全に特化しているかと言えば、そうではなく、例えば、飲食業に特化している税理士事務所が他の業種の業務を一切行っていないかと言えばそうではなく、他の業種も行っていることがほとんどです。
まず、スタンダードタイプの税理士事務所のについて説明していきます。
スタンダードタイプの税理士事務所
まず、税理士とは、税金に関する相談や手続き、書類作成を納税者に代わって行うための資格です。
いわゆる一般的なスタンダードタイプの税理士事務所は、税務の手続きをメインに行っている事務所です。
スタンダードタイプの税理士事務所が行なっている業務は具体的には以下のようなものがあります。
・記帳代行
「簿記」のルールに従って領収書、通帳や請求書などを会計ソフトに入力する業務で、日付、勘定科目、取引内容、金額を入力する業務です。
・経理内容のチェック
お客様側の経理内容に誤りがないか定期的にチェックする業務です。
・税務相談
税金に関する相談、例えば、特定の領収書が経費になるかなどの相談に応じる業務です。
・法人の決算申告
法人=会社のことで、1年に1回法人は、年間の売上や経費などを集計した「決算書」の作成義務があります。
決算書と税務申告書の2つを作成する業務を法人の決算申告業務(「決算書+税務申告書」)と言います。
・個人の確定申告
給与以外の収入がある方で税金の確定するために1年間の収入や経費に関して税務署に報告する手続きのことを「確定申告」と言います。
・年末調整
年末調整とは、中小企業の経営者の雇用している従業員の税金計算を行い、税務署や都道府県、市区町村へ届出を行う業務です。
・税務調査立会
税務署により、税務の手続き内容に誤りがないか不定期に調査が行われる際に、企業に変わって税務調査の立会を行う業務です。
これらの業務をメインとして、以下で紹介する業務のウエイトの違いが税理士事務所の特徴の違いになります。
相続税・事業承継特化型の税理士事務所
最近、税理士事務所業界で特に成長している事務所に多いのが、この相続税・事業承継特化型事務所です。
相続税とは、亡くなった方が持つ資産を配偶者、子供、兄弟等を引き継ぐ際にかかる税金の事です。
相続税は、誰でも対象になるわけではなく、一定の金額以上の資産を持つ方がなくなった時にかかる税金です。
相続税は、平成27年に改正があり、相続税の対象になる方の範囲が広がり、税率がアップしました。
この税制改正により、相続税の申告の対象者が増えたこと、そして、いわゆるベビーブーム、団塊の世代の方々が80歳を迎える2030年を控え、この相続税の申告が必要となる「大相続時代」が来ると言われていることから相続税に特化している税理士事務所が急成長しています。
また、これに伴い、事業承継が今後増加すると言われています。
事業承継とは、会社が代替わりにする際に、後継者に経営を引き継ぐことを言います。
会社を継続するための資産などをスムーズに後継者に引き継げるよう、税理士事務所が税金等の対策を行うこともあわせてサポートするのがこの相続税・事業承継特化型の税理士事務所の特徴です。
なぜ、この分野の税理士事務所が成長しているのかというと、上記のように相続税、事業承継のニーズの高まりがあること、そして、相続税、事業承継の分野は、知識・ノウハウの非常に専門性が高いことが挙げられます。
様々なパターンの相続、事業承継があり、幅広く、難解な税務知識が必要とされると同時に、明確な回答がある分野ではなく、税理士事務所としての問題解析力、ノウハウ・知識・提案力の差がでる分野です。
ノウハウ・知識・提案力=サービス力です。
専門分野に特化することでノウハウ・知識・提案力が高まり、税理士事務所としてより高いサービス力を持つことが可能となるため、特定の分野に特化する必要があります。
特化した分野の経験・スキル・ノウハウが「この分野なら負けない、この分野なら自信を持ってサービスし、喜んでいただける」というプロフェッショナルとしての専門性をより高めることができ、自身の成長につながります。
サービス力が高ければ高いほど、お客様により喜んでいただくことができ、対価としてより高い報酬をいただくことができます。
お客様から高い報酬をいただくことで、そこで働く職員は、無理な残業なく、給与水準を高めることができます。
一方、サービス力がない税理士事務所は、他の事務所との違いがないため、高い報酬をいただくことが難しく、より安い報酬かどうかがお客様の選択の基準となってしまいます。
安い報酬によるサービスでは、そこで働く職員の給与水準は上がりにくく、長時間残業‥ということになりかねません。
よって、大切なのは、就職先の税理士事務所を探す際に基準となるのは、まず、サービスの特徴があるかどうかだと思います。
話が少しそれましたが、この相続税・事業承継分野に特化している事務所の特徴としては、30名を超える大規模なことです。
個人の税理士事務所では、この手の事務所は少なく、大手の税理士法人、中堅の税理士法人で多くみられます。
また、地価の高い大都市圏に多いのも特徴です。
創業特化型の税理士事務所
創業特化型の税理士事務所とは、起業直後の企業に対して記帳代行、法人の決算申告、確定申告、年末調整などの税務手続き等のサービスを行う事務所の事です。
この創業特化型の税理士事務所は、比較的、社歴の短い税理士事務所に多いのが特徴です。
創業特化型の税理士事務所の特徴は、経理の事、税金の事だけでなく、銀行からのお金を調達する融資の事や社会保険の手続きに関することなど相談内容が幅広く、それだけに、幅広い知識を得ることができます。
また、若い経営者の方と仕事することができ、どのような企業が成長するのか、失敗するのかを目の当たりにすることで起業直後の成功のパターンを知ることができ、企業成長真っ只中の企業と一緒に成長できるのがこの分野の事務所で働くメリットだと思います。
成長していれば良いのですが、企業直後、経営を軌道に乗せるまでは、経営が大変なことも多く、売上がどうやったら増えるのか、現場や人のトラブルなどをしっかりサポートする場合には、大変なことも多く、一つの意思決定が経営を大きく変えることになりかねません。
税理士事務所のとしてどこまでサポートするか、様々なスタンスはあるでしょうが、関わり方によってはやりがいを感じることができ、企業として大切な時期を支える分野の仕事だと思います。
業種特化型税理士事務所
業種特化型の税理士事務所とは、その名の通り、特定の業種に特化している税理士事務所になります。
一番耳にするのが、飲食業の特化型事務所でその他美容業や医療系や不動産オーナー、太陽光発電オーナー、仮想通貨、建設業、EC、お寺、教会などの宗教法人、の業種に特化している事務所があります。
面白い業種に特化しているケースでは、飲食業の中でさらに絞り込んだパン屋専門やキャバクラなどの風俗専門などが挙げられます。
業種型の事務所で勤務するメリットは、特定の業種に詳しくなることです。
その業界に詳しい相手と話すことは、お客様である経営者にとっては、非常に楽です。
そして、お客様とのコミュニケーションが深くなります。
税理士事務所と経営者の話は、単なる数字上の話になりがちです。
ただし、特定の業界に関する基礎知識、特有の用語、トレンド、業界でのタブー、業界で成功するためのポイント、失敗する原因などの理解が税理士事務所側にある場合、そのコミュニケーションが深くなり、数字の話をする上で、どうしたら、より良い経営を行うことができるかどうかの視点を加えることが可能になります。
そして、この視点の有無が税理士事務所のサービス力となります。
特化している事務所だと狭い範囲の業種しか経験できないと心配になる方がいらっしゃるかもしれませんが、業種特化型の税理士事務所といっても100%、特定の業種に特化しているわけではない事務所がほとんどだと思います。
特化しているといっても全体の25%程度が中心で、多くても全体の40%~50%ほどではないかと思います。
経営支援型税理士事務所
この経営支援型の税理士事務所の特徴は、経営支援に積極的に取り組んでいることです。
経営支援の分野は様々ですが、一般的には、どうやったら長期的に儲かる企業を作ることができるかという視点がベースとなります。
この視点をベースに、何を優先的に行うべきか、どの市場を狙うべきか、どの商品に力を入れるべきか、どのような人材を採用し、育成するかなどを企業としての様々な目標を明確にしたうえで、数字面を含めた達成すべき目標を達成するためにサポートする分野のことを言います。
いわゆる経営コンサルティング分野です。
この経営支援分野は、百戦錬磨の経営者との対話を重ねるためのコミュニケーションスキル、経営に必要な戦略的な思考ができるかどうかなど、数多くの失敗を重ねながら、行うことができるようになるため、身に付ける分野は、幅広く、奥深いものとなるため、一人前になるまでには相当の時間を要することになります。
ここまで出来ればOKというスキルではないため、一生勉強し続ける必要がありますが、この経営コンサルティング分野で成果をだし、活躍できるようになれば、自身を持って、非常にやりがいある仕事を行うことができるようになるでしょう。
経営支援と言っても、その内容、レベル感は事務所によって大きく異なることなる点は注意が必要です。
税理士事務所の選び方のまとめ
これまで、業務内容別に税理士事務所・会計事務所の特徴と違いについて説明してきました。
説明した税理士事務所のパターン以外にも、特殊で難解な税務分野に特化している税理士事務所やfreeeやMFクラウドなどクラウド会計に特化している税理士事務所、弁護士や社労士、司法書士などの他士業を要するワンストップ型の税理士事務所などがあります。
いずれの税理士事務所・会計事務所の業務は、現在のところ、知識がベースとなる仕事です。
このように様々な税理士事務所・会計事務所がある中で、どの事務所で働くかによって、そこで行う業務が異なるため、得られる知識が全く異なってきます。
よって、どの事務所で働くかがご自身のスキルに直結します。
弊所では税理士事務所の勤務経験者を行っていますが、応募される方の応募理由の多くが以前の税理士事務所では、自身のキャリアに不安があるとおっしゃっています。
就職する側にとっても雇用する側にとってもミスマッチが一番不幸です。
そこで、就活の際には、面接前にホームページをしっかり見て、面接の際に、「税理士事務所の特徴又は強みはなんでしょうか」という質問とともに、「今後その強みをいかに伸ばして、展開していくか」について聞いてみてみてください。
そうすれば、事務所の特徴があるかないか、あるようだったら自身のキャリアイメージと合っているかを事務所選びの判断基準にされてみてはいかがでしょうか。
佐藤 修一
佐藤修一公認会計士事務所代表
(九州北部税理士会福岡支部所属:登録番号028716) 公認会計士・税理士。全国の中小企業にこれまでクラウド会計導入実績累計300社超、クラウド会計導入率70%超。2022年freee西日本最優秀アドバイザー、マネーフォワードプラチナメンバー。 (株)インターフェイス主催第18回経営支援全国大会優秀賞。 全国各地の中小企業に対して、会計から利益とキャッシュを稼ぐ力を高め、キャッシュフローを重視した節税提案、利益とキャッシュを稼ぐ力を高めるサポートや事業再生支援を行っている。 総勢30名のスタッフで「Warm Heart(温かい心)&Cool Head(冷静な頭)」をコンセプトに個々のお客様ごとにカスタマイズしたお客様に寄り添うサービスを提供している。